2024.12.17
CS寺子屋Vol.18「CSが整理すべきKPIツリーと改善アクションの優先順位付け」
- CS
- CS設計
- KPI
- カスタマーサクセス
- 組織開発
カスタマーサクセスの業務領域は幅広く、求められる期待や活動内容も違います。カスタマーサクセスの成果を測定するにはビジネスと顧客の成果を結びつけるKPIツリーの作成が不可欠です。
一方で、CS組織の運営をおこなうマネージャーからは「どのKPIに注力すればよいかがわからない」、「どのように優先順位をつけるとよいかがわからない」といったお声もよく耳にします。
CS寺子屋Vol.18では「CSが整理すべきKPIツリーと改善アクションの優先順位付け」というテーマで、弁護士ドットコム株式会社の中嶋さん、株式会社Leaner Technologies の織茂さんの2名をお招きし、KPIツリーの整理方法や改善アクションの優先順位付け、社内への展開方法について実例を交えながらお話いただきます。
スピーカー紹介
※以下の紹介文は、今回のイベント開催時点の情報です。
弁護士ドットコム株式会社
中嶋 太志
エンタープライズ企業に対して「クラウドサイン」の導入や定着を支援する部門の責任者として、CS活動に従事。自部門では多様な業界のクライアントに対する業務変革プロジェクトの推進支援を管掌しつつ、CS部のナレッジマネジメント活動やイネーブルメントプログラムの企画・管理なども担う。対外的には、日本国内のデジタル化の進展、および、カスタマーサクセスに関する知見の蓄積・発展に寄与することを目的に、カスタマーサクセスに関する情報発信やイベント企画などの活動を行っている。
株式会社Leaner Technologies
織茂 尚之
2016年に新卒でリクルートジョブズに入社後、5年間HR領域のエンタープライズセールスを経て、2020年に当時社員数5名の株式会社Leaner Technologiesにジョイン。Leanerでは、エンプラSalesチームを経て、調達力を強化するソーシングDXクラウド『リーナー見積』『リーナー購買』のカスタマーサクセスチームの立ち上げ、現在はカスタマーサクセスチーム+MMB領域のセールス責任者を務める。好きなことは商談とサウナで熱波を送ること。
パネルディスカッション/Q1: KPIツリーの整理における基準と手順、重要KPIの選定について
カスタマーサクセスの第一線で活躍している2名のパネラーが、今までのCS経験からKPIツリーのノウハウをお話いただきました。
(株式会社Leaner Technologies 織茂 尚之さん)
私の場合は「売上」と「CS介在インパクト」の大きさを基準として考えました。
カスタマーサクセスとしての部分最適な考え方ではなく、事業全体の枠組みで考えていく。その中で、セールスとCSのどちらが役割として適切かを整理しています。
当社は月額利用料でサービス提供をしており、売上はMRRと非MRRに分解されます。MRRは新規・アップセル・クロスセル・チャーン・ダウンセルの5つに分解して整理しました。
その後、KPIツリーの優先課題を3つに整理しています。
- CSの枠を超えて重要(≒会社/事業としてのトップイシュー)
- 会社/事業として重要×CSが解決すべき(≒CSチームのトップイシュー)
- 自社の事業優位性で現在課題ではない(≒維持できればOK)
優先課題に順位をつけるとき、重要視していることは「背景の言語化」です。自分たちのチームだけでなく、周辺チームや経営も含めて説得をするためには、言語化することが必要不可欠です。
当社は、シリーズBの中で今後の資金調達やマーケット変革をおこなうために、新規MRRの積み上げを重要視しています。CSの枠に留まっていると新規が伸びないため、1位のトップイシューを「新規&既存×単価」にしました。
「新規&既存×単価」が重要な理由が3つあります。
①T2D3の後半における”新規ARRの積み上げ幅”への対応
T2D3は後半になるほど、新規ARRの積み上げ幅が大きくなります。しかし、それだけに頼らない「小さく入って高単価受注に繋げること」が戦略として重要です。
②新規受注の提示単価はサクセスの大きさで決まる
新規受注の提示単価は、既存顧客が得られるサクセスの大きさや更なるサクセス≒UPSELL余地に依存します。その意味で、CSが単価にこだわることにインパクトがあると考えています。
③CSがプライシングロジックにこだわる
顧客のサクセス体験と比例したプライシングロジックは、CSが最も理解していることから、磨きこむことでサクセスの大きさを拡大し、ビジネスの成長に繋げられると考えています。
Q&A:社内のステークホルダーとの合意形成の進め方について
工夫の一つは、目線合わせをKPIツリーの上流からおこなったことです。いきなり「解約率を防止しないといけない」「単価を上げないといけない」といった話から始めても、立場によって重要度が違います。
会社として一番譲れないものがどこなのかを目線合わせにいく。そのうえで、セールス・CSがどこをおさえにいくかを整理していきました。
Q&A:売上にコミットするCS組織の採用戦略について
当社はシリーズBに入ろうとしているスタートアップであり、新規MRRを積み上げられないと次のラウンドの資金調達が難しくなります。そのような企業のカスタマーサクセス組織は、全員が新規MRRにこだわるべきだという考えが社内に浸透しています。
また、当社ではフィールドセールスとカスタマーサクセスは採用要件を分けていません。最終面接で、応募者の希望と当社の注力ポイントをすり合わせて配属を決定しています。配属後も、垣根を越えて業務をしてもらうことがあり、セールス・CSの壁を無くして事業に向き合ってもらっています。
(弁護士ドットコム株式会社 中嶋 太志さん)
私がKPIツリーの整理にあたって重要指標(トップイシュー)を絞り込む基準として考えたことは「伸びしろ≒改善余地の大きさ」と「改善スピード」です。そして、実際に内容を検討していく過程においては、以下の2つの考え方を念頭に置きながら関係者とすり合わせをおこなっていきました。
- 大枠から判断し、重要なKPIの詳細を検討
- 「抽象↔具体」を行き来しながら因数分解
次に、実際のKPIツリーをご紹介いたします。私のグループでは民間のエンタープライズ企業様をご支援するチームと、地方自治体様をご支援するチームに分かれていますが、本日は後者の地方自治体様向けのCSチームにフォーカスしてお話いたします。
KPIツリーは、事業部売上を自治体売上と民間売上に分解し、その後はMRRと非MRRに分解しています。その中でも、自治体売上について現在の事業フェーズにおいては新規顧客数を重視して詳細を検討する形にしています。その背景として、クラウドサイン自体がサービスをリリースしたのは2015年ですが、自治体様の導入が始まったのは2021年です。2021年1月に地方自治法施行規則が改正されたことで、自治体様がクラウドサインを導入できるようになり、それ以降で段階的にご導入が進んでいる状況でありまして、市場としては立ち上がり段階です。また、先行して比較的早期からご導入されている自治体様の継続率や定着状況も極めて良好であったということもあり、未導入の自治体様のご導入を後押しすることが重要テーマでした。
その上で、カスタマーサクセスチームとして直接的には継続率(解約率)を、間接的に受注率やリード数、商談化率等に寄与する利用件数(利用実績)を重視しました。
Q&A:意思決定の流れと苦労ポイントについて
「クラウドサインの導入シェア拡大」が大方針です。そこに向けてどう進めるかを営業とCSの責任者同士でディスカッションをおこない意思決定をしていきました。
苦労したポイントは、自治体固有の業務特性や慣習・法律のキャッチアップと、CSの役割定義の調整です。
パネルディスカッション/Q2: 重点課題におけるCSチームの活動方針とKPIについて
KPIツリーから導き出された重点改題に対して、どのようにCSチームの活動方針とKPIを立てて推進しているかをお話いただきました。
(株式会社Leaner Technologies 織茂 尚之さん)
事業部としてはT2D3以上の事業成長をしていく方針がある中で、カスタマーサクセスは既存顧客のARPA引き上げをおこなっていきます。
活動方針としてLand & Expand戦略を推進しており、小さく入ってどれだけ大きくできるか、それに向けてどういった活動をしているかをお話します。
CSチームの目標は2つあり、1つはベースとなる「アカウントチャーン防止」です。もう一つがARPA引き上げに向けた活動で「ARR5,000万円以上のサクセス事例創出」を目標にしています。
KPI達成に向けた活動は4つおこなっています。
①導入部門→顧客&グループ会社全体のサクセスプランの磨きこみ
例えば、1個の工場でプロダクトが導入されたときに、1個の工場に対するサクセスプランを作るか、会社全体のサクセスプランを作るのかで全くやることが変わってくると考えています。企業全体の視点とグループ全体の視点でサクセスプランを磨きこんでいく活動が一つ目の施策です。
②Land & Expandしやすいプライシングロジックの見直し
お客様のサクセス体験が伸びて、プロダクトの投資も伸びる納得感のあるドライバーがどこか、それを合わせたプライシングロジックを決めていく活動です。
③アウトカム別のサクセスレベルに合わせた現在地と目指す姿の設定
アウトカムのレベルを意識して定義しています。お客様がどのレベルを目指したいかをコミットし、現在のサクセスレベルと目指す姿までの道のりを設定しています。
④三層接点によりEB≒最終決裁者との価値合意
5,000万の料金は簡単には出せません。最終決裁者の接点をとって価値合意をしていく活動を意識しておこなっています。
(弁護士ドットコム株式会社 中嶋 太志さん)
重点課題は「クラウドサインの導入シェアを維持・向上すること」です。そして、カスタマーサクセスチームの役割は「いかに営業にカスタマーサクセス業務をさせないか」を重視していました。当社の体制として、昨年まで自治体様に対しては営業担当がカスタマーサクセス活動も担うことが珍しくありませんでした。
しかし、ありがたいことに導入自治体数が著しく増加してきた状況もありまして、カスタマーサクセスチームとの役割分担をよりハッキリさせていくようにしました。
一方で、もちろんカスタマーサクセスチームとしても無限にリソースがあるわけではないので、導入数が増えていく中で効率化が論点になっておりました。サービスを安定的に供給することを前提にしつつ支援工数を最適化していくことを一つの活動方針として掲げました。
その中でもまずは、必要最小限の人員で多くの案件に対応していくためにオンボーディングの管理と効率化に注力しました。
パネルディスカッション/Q3: 参加者が実践する上で気を付けるべきことについて
自社で実践をしていく上で気を付けるべきことについて、最前線で実践している2名にお話いただきました。
(株式会社Leaner Technologies 織茂 尚之さん)
CSチームの枠を超えて整理しましょう。CSが貢献できるテーマは多岐にわたります。それを理解した上で、どこに注力すべきなのかを考えてください。また、当社のようなアーリーフェイズの場合に関して、新規MRRの積み上げは非常に重要なので、そこにしっかり職能を超えて向き合いましょう。
もう一つはツリーに紐づいたインパクトの言語化です。今向き合っている目標と施策はツリーのどこにヒットしているか、どれだけ整理してメッセージできるかが大事なので、周りの人に協力いただきながら一緒に同じ方向を向いてやりきることが気を付けるポイントだと思います。
(弁護士ドットコム株式会社 中嶋 太志さん)
CSチームの役割を段階的に設計することが重要です。一般にCSの役割は多岐に渡ります。社内でも様々な人がCSチームに対して多くの期待をもっていて、それがバラバラであることが多いです。全ての期待に対して同時に応えることはできないため、中期のロードマップをひいて段階的に役割を拡大していく設計と、各関係者の皆さんと丁寧にコミュニケーションを重ねていくことが大切だと思います。
工夫としては、現状の延長線上だけで考えず、中期の理想から逆算して共有することを大事にしています。例として、事業計画を参考に3年くらいのイメージです。CS活動が事業成長にとって欠かせないことを結果で示せるようKPIを定めつつ、お客様の成功と事業の成長が両輪で進んで行くと理想的です。
カスタマーサクセスのKPIツリーと改善アクションの優先順位付けについて知りたいときは、KOMMONSコミュニティへ!
株式会社KOMMONSでは「働くを、傍楽に」というVisionのもと、国内最大級のカスタマーサクセスコミュニティを基盤に、カスタマーサクセス特化型のキャリア支援事業、カスタマーサクセス設計支援事業の2つを提供しています。
各社でカスタマーサクセスを推進しているメンバーがコミュニティ内に多数いるので、イベントやSlackでの質問・交流など、ご自身に合ったスタイルで参加いただけます。
ご興味のある方は、ぜひ以下よりご参加ください。