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【イベントレポート】東京ガスに学ぶ、新規...

2026.10.5

【イベントレポート】東京ガスに学ぶ、新規事業を前に進める“仕組み”と“現場力”

    新規事業は、「何を検証すればいいのか」「どこまで確かめれば次へ進めるのか」が曖昧な中で、実務者と意思決定者の認識を揃え、事業を前に進めていく必要があります。

    今回のセミナーでは、東京ガス株式会社の吉田氏をお招きし、「新規事業を前に進める“仕組み”と“現場力”」をテーマに、新規事業開発のリアルな試行錯誤と、そこから得られた実践知についてお話しいただきました。

    01|新規事業では「何を・どこまで確かめるか」が見えない

    吉田氏は東京ガス株式会社(以後、東京ガス)入社後、約10年にわたり業務用機器の開発などに携わった後、2022年から新規事業開発に取り組み始めました。

    既存事業では、目標や取り組むべき課題がある程度明確です。一方、新規事業部門で最初に与えられたのは、「売上100億円規模の事業をつくる」というミッション。領域や進め方についての制約はほとんどありませんでした。

    「自由度の高さ」が新規事業の難しさにもなる

    当時を振り返り、吉田氏は「何をすればいいか全く分からなかった」と語ります。

    • ゴールから考える必要がある:既存事業では決められた目標の達成方法を考えるのに対し、新規事業では「何を目指すのか」から考える。

    • 判断基準が曖昧になりやすい:何をどこまで検証すれば次へ進めるのかが分からず、実務者と意思決定者の期待値もずれやすい。

    • 仮説の状態で意思決定を重ねる:顧客・課題・解決策など、分からないことを一つずつ確かめながら進める必要がある。

    最初に取り組んだ「シニア人材の活躍支援」では、半年以上検討を続けたものの、「最後に誰がお金を払うのか」を答えられず、自ら中断を申し出たといいます。

    この経験を経て、新規事業を進めるうえで大きな助けになったと振り返るのが、「ステージゲート」という仕組みでした。

    02|ステージゲートで「次に証明すべきこと」を揃える

    東京ガスでは、事業の成熟度を段階に分け、それぞれの間に投資判断の節目となるゲートを設定しています。

    吉田氏は、ステージゲートの本質を「事業の成熟度を段階に分けること」と「投資判断の節目を置くこと」だと説明します。

    フェーズごとに「求める確からしさ」を変える

    まず新規事業は、大きく4つのステージに分けています。

    • 事業アイデアの仕立て:顧客は誰なのか、どのような課題を抱えているのか

    • 事業計画の設計:課題を解決できるのか、プロダクトとして実現できるのか

    • 事業の立ち上げ:プロダクトが市場に受け入れられるのか

    • 事業の拡大:事業としてスケールできるのか

    ここでポイントとして語られたのが、すべての段階で同じレベルの確からしさを求めないことです。

    初期段階で完璧な収益計画を求めるのではなく、まずは顧客や課題を確かめる。一方、事業化が近づけば、「顧客はたぶんいる」「おそらく儲かる」という状態では投資判断ができません。

    吉田氏は、ステージゲートによって、「次に証明すべきことが見えるようになったこと」と「実務者と意思決定者の間に共通言語ができたこと」が大きな変化だったと振り返ります。

    一方で、フォーマットを埋めること自体が目的になってはいけないとも語ります。

    ステージゲートは答えを教えてくれるものではなく、あくまで「次に何を確かめるのか」を示す地図。そのための材料を集めるのは、現場の役割ということです。

    03|「顧客に会いたい。でも会えない」という壁

    現在の「保全ノウハウ継承サービス」につながる事業では、最初に「顧客は誰で、どのような課題を抱えているのか」を検証するところから始まりました。

    人手不足や属人化という社会課題は見えていても、「実際に誰が、何に困っているのか」を理解するためには、顧客に直接会う必要があります。

    しかし、そこで直面したのが「顧客に会えない」という壁でした。

    既存顧客がいても、簡単にはアクセスできない

    • 営業部門との目的の違い:既存顧客との関係や売上を担う営業にとって、まだ形になっていない新規事業を顧客へ持ち込むことには慎重にならざるを得ない。

    • 既存アセット活用への期待:一方、マネジメントからは「既存の顧客接点を活用すべき」と求められる。

    • 社内だけでは顧客にたどり着けない:社内約3,000人に協力を依頼したものの、そこから直接顧客インタビューにつながることはなかった。

    そこで、社外の新規事業コミュニティやイベント、知人からの紹介などへと動き方を変え、自ら顧客接点をつくっていきました。

    実際に企業を訪問して話を聞く中で見えてきたのが、「設備保全のノウハウがベテラン社員の頭の中に閉じている」という具体的な課題です。

    この経験について吉田氏は、ステージゲートが教えてくれるのは「何を確かめるか」であり、そのための材料は現場があらゆる手を尽くして集めなければならないと語ります。

    仕組みと、泥臭く検証材料を集める現場力。その両方が揃ったことで、次のゲートへ進むことができました。

    04|「欲しい」ではなく「お金を払う」まで確かめる

    顧客課題を確認した次のステージでは、「いい課題ですね」という共感だけでは、会社のリソースを動かすための判断材料として十分ではありません。

    ここで提示されたのが、プロトタイプ開発へ進む前に、「完成したら買う」と言ってくれる顧客を複数見つけることでした。

    まだプロトタイプすらない段階だったため、事業メンバーからも「物がないのに、買うと言ってもらえるわけがない」という反応があったといいます。

    一方、以前の事業検討で「最後に誰がお金を払うのか」を答えられなかった経験から、吉田氏自身も「本当にお金を払う人がいるのか」をこの段階で検証する必要性を感じていました。

    会議室ではなく、顧客の「現場」に入る

    • 共感と購買意思を分ける:「面白い」「あったら便利」という反応ではなく、本当に対価を払う課題なのかを確かめる。

    • 実際の業務を観察する:ある企業では3日間現場に入り、インタビューだけでは見えない課題やボトルネックまで把握した。

    • 自分自身の体験として課題を理解する:現場を見ることで、顧客から聞いた話ではなく、自分の言葉で課題を語れるようになる。

    こうした検証を重ねた結果、「完成したら買う」という顧客を2社見つけ、プロトタイプ開発へ進むことができました。

    その後も、実際に顧客に触ってもらい、操作や反応を見ながら修正を繰り返します。

    顧客を完成したものを評価する「審査員」ではなく、一緒に事業をつくっていくパートナーとして捉えることが大切だと語りました。

    05|小さな実績から、社内のアセットが動き始める

    顧客との検証やプロトタイプ開発が進み、事業が具体化すると、当初は活用しづらかった社内の営業網や顧客接点にも変化が生まれました。

    アイデアだけの段階では難しかった営業部門との連携も、「顧客が実際に困っている」「買いたいと言っている」「動くものがある」といった材料が増えることで進みやすくなっていきました。

    • 初期段階では既存アセットを使いづらかった:具体的なものがない状態では、営業部門から顧客を紹介してもらうハードルも高かった。

    • 顧客の声やプロトタイプが「証拠」になる:事業の確からしさを示せる材料が少しずつ増えていった。

    • 具体化することで社内との連携も変わる:営業との共同提案など、既存アセットを活用できる場面が増えていった。

    こうした変化を振り返り、吉田氏は「順番が逆だったのかもしれない」と話します。

    最初から大企業のアセットを活用しようとするのではなく、まずは自分たちで小さな実績をつくる。その事実が積み上がることで、結果的に社内のアセットも動き始める。

    今回の事例では、既存アセットを「使えるかどうか」だけでなく、「どのタイミングで使うのか」も一つのポイントとして共有されました。

    06|「仕組み」と「現場力」の両方で事業を前に進める

    今回のセッションを通して繰り返し語られたのが、「仕組み」と「現場力」の両方が必要だということです。

    ステージゲートが示してくれるのは、「次に何を確かめるべきか」。

    一方、その問いに答えるためには、顧客に会い、現場へ入り、仮説をぶつけながら材料を集めていかなければなりません。

    これまでの経験から、今回のセッションでは次のようなポイントが共有されました。

    • ステージゲートを「地図」として使う:次に何を確かめるのかを、実務者と意思決定者で揃える。

    • 必要な顧客接点は自らつくる:社内で難しければ、社外のコミュニティや紹介なども活用する。

    • 「欲しい」ではなく「買う」まで確かめる:共感だけでなく、本当に対価を払う課題なのかを検証する。

    • 顧客と一緒につくる:完成してから評価してもらうのではなく、検証段階から顧客を巻き込む。

    • 小さな実績から社内を巻き込む:顧客の声や実績を積み上げることで、既存アセットを活用しやすくする。

    「仕組みが何を確かめるかを教えてくれて、現場がその材料を集める」。

    どちらか一方ではなく、その両方が揃ったからこそ事業を前に進めることができたと、振り返りました。

    Q&A|もう一度ゼロから始めるなら、まず顧客に会いに行く

    セッション後半では、参加者からの質問をもとに、新規事業の進め方についてさらに掘り下げました。

    「もう一度ゼロから新規事業を始めるなら、何から始めるか」という問いに対して、吉田氏が挙げたのは、「まずお客さんのところへ行く」ことでした。

    アイデアがまだ粗い段階で顧客に見せることには、否定される怖さもあります。実際、新規事業では「これに意味があるのか」「もっとできてから持ってきて」と言われることもあり、心理的なハードルは高かったと振り返ります。

    それでも、社内だけでアイデアを固めるのではなく、顧客と一緒に叩きながら、一緒につくっていく。

    今回の経験を踏まえ、もう一度始めるとしても、最初の一歩は「顧客に会いに行く」と語りました。

    最後に

    今回のセッションでは、同社での新規事業開発の実例をもとに、ステージゲートという「仕組み」と、顧客に向き合い続ける「現場力」についてお話しいただきました。

    次に何を確かめるのかを仕組みによって明確にし、その答えを得るために現場へ出ていく。

    顧客に会えなければ、自ら接点をつくる。課題が見えなければ現場に入り、本当に対価を払うのかまで確かめる。そして、そこで得た小さな実績を積み上げながら社内を巻き込んでいく。

    吉田氏の実体験を通して、仕組みだけでも、現場の突破力だけでもなく、その両方を行き来しながら新規事業を前に進めていくプロセスが共有されたセッションとなりました。


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