
新規事業開発の実践者たちが集う本イベント。
アイデアの優劣や個人の情熱だけでは突破できない「組織の構造的な壁」をいかに乗り越えるか。
今回は新規事業の現場と仕組みづくりに深く携わってきた土井氏が登壇し、「経営層のコミットメントを引き出す目標設定と相場観」、そして「予算消化型プロジェクトからの脱却」をテーマに、実践的な知見を熱く語りました。
【イベント概要】
開催日時:2026/8/19 (水)
開催場所:xBridge-Yaesu
タイトル:経営層のコミットメントを引き出す「目標設定」の技術
プログラム:トークセッション/参加者交流セッション
登壇者紹介:土井 雄介氏(株式会社ユニッジ 代表取締役 / 株式会社アルファドライブ プリンシパル)
新規事業の現場で蔓延している最大の課題は、「ゴールがない、または目標管理が機能していないこと」にあります。
中期経営計画(中計)などで「5年で営業利益3桁億円」といった現実味のない目標が設定された結果、数年後に利益がゼロ(あるいは赤字)であっても誰も責任を取らず、全員が見て見ぬふりをする構造が生まれています。
目標と現状のギャップに対して正しい「相場観」がないと、現場は実行不可能な計画に忙殺されることになります。
日本国内の最も成功している新規事業(上場企業や有力スタートアップ)におけるリアルな相場観は、「1案件あたり7〜9年かけて売上30億円・利益3億円」程度です。
単一事業の限界:ボトムアップや公募型の制度をどれだけ愚直に回しても、6年で到達できる総売上は15億円程度(単体では5億円前後が限界)。
経営とのコミュニケーション:数年で100億円を目指すのであれば、単なる社内公募ではなく、オープンイノベーション、M&A、アセットの群化といった手段を組み合わせた設計が必要不可欠となります。
「なぜ自社が新規事業をやるのか(売上・利益・既存シナジーのどれを目指すのか)」という根本に立ち戻り、相場観に合った目標設定を行うことが第一歩となります。

新規事業が進むにつれて陥りがちなのが、「事業ではなく、プロジェクト化してしまう」という現象です。
大企業には年度予算(予算枠)が存在するため、本来向き合うべき「顧客」ではなく、「社内予算の承認者」に向かって仕事をしてしまう構造が生まれます。
プロジェクト化の悪循環:売上を立てて黒字化を目指す「事業経営」ではなく、「社内予算を獲得・消化できれば生き残れる」という思考停止に陥る。
サンクコストの増大:撤退基準がないままプロジェクトが延命され、「止めたら成果がなくなる」と社内調整に追われる。
社内予算は立ち上げ期の「ボーナスステージ」に過ぎません。顧客から対価を得て事業を回すという本来の姿に立ち返るためには、適切な管理会計の導入と、社内に向きがちな目を顧客へ連れ戻す評価構造が必要です。
事業をスケールさせる段階では、攻め(リソース配置)と守り(ガバナンス・既存ルール調整)の設計が明暗を分けます。
新規事業において、単なる出向トレードや異動による人員配置は事業を破壊します。
項目 | 従来の配置(失敗パターン) | 必要な配置(成功パターン) |
選定基準 | 枠を埋めるための人事異動・社内調整 | 事業フェーズに必要な明確なジョブ要件 |
重視する点 | 社内での役職・職歴 | 顧客・課題に向き合える意志(Will)と専門スキル |
外部活用 | 社内人材のみに縛られる | 外部調達(副業・業務委託・採用)を柔軟に組み合わせる |
また、守りの面(法務・情シス・品保等)においても、既存事業と同じ厳格なルールを適用するのではなく、「検証段階」「有償PoC」「事業化」といったフェーズに応じた段階的なガバナンス(業務改善)を構築することが重要です。
社内新規事業制度だけを単体で運用していても、案件は枯渇し、スケールもしません。社内コンテストの「事務局(プロマネ)」にとどまるのではなく、企業内に持続的な「スタートアップ・エコシステム(生態系)」を構築することが求められています。
多様な創出手段の接続:社内公募だけでなく、オープンイノベーション、CVC、M&A、トップダウンプロジェクトを経営戦略と矢印でつなぐ。
決断と撤退のルール化:段階的なステージゲート、管理会計、撤退判断基準をあらかじめガイドラインとして整備する。
日本の歴史的な強みは、既存事業のアセットを持ちながら新しい価値を生み出してきた「イントラプレナー(社内起業家)」の存在にあります。個人の突破力だけに依存せず、事業が生まれ・育ち・大きくスケールする「仕組み」を組織として構築していくことこそが、これからの新規事業開発における本質的な解となります。

プレゼンテーション終了後には、会場の参加者から寄せられたリアルな悩みに答える質疑応答が行われました。
事業を立ち上げて大きくする際、チームを壊してしまうような人材を避けるにはどうすればよいでしょうか?
避けるべき人材には大きく3つの特徴があります。
・バリューがフィットしない人:スキルや能力は優秀でも、大事にしている価値観が合わないタイプ。
・事業責任者とウマが合わない人:初期フェーズでは強い不協和音を生む原因になります。
・風土を悪くしてしまう人:超優秀であっても、社内メンバーを詰めすぎてチームの雰囲気を壊すようなタイプ。
対策として、自分たちが大事にしている価値観をあらかじめ言語化・棚卸ししておき、それに合致するかを確認することが重要です。
質問者:逆に「入れるべき人材」の要件や、アサイン時のポイントについて教えてください。
フェーズによって必要なアサインの形が大きく異なります。
立ち上げ初期:ビジネス・IT・デザイン等を組み合わせた「BTC型」のアサインを行いがちですが、初期はスキルよりも「思いへの共感」や「顧客に向き合えるか」というWill(意志)で組むべきです。ピボット(方針転換)が起きた際にスキルだけで集めたチームは崩壊しやすいためです。
成長フェーズ:明確なジョブディスクリプション(職務記述書)を描き、必要な機能をピンポイントで埋める人材(内部調達・外部調達問わず)をアサインすることが重要になります。
経営層から「なぜうちで新規事業をやるのか」と問われた際、どう引き出せばよいでしょうか?
具体案件(玉)なしで抽象的な議論をしていても話は噛み合いません。具体的な事業案をコミュニケーションツールとして使い、「収益性(いくら稼げるか)」と「戦略合理性(なぜ自社でやる意味があるのか)」の軸で議論を深めるのが有効です。
ただし、初期段階(エントリーフェーズ)で「TAM(市場規模)が小さい」「自社でやる理由が曖昧」といった理由で案を落とされないよう注意が必要です。顧客が固まるにつれて不確実性は減っていくため、初期は「判断保留でまずやらせてみる」設計にし、事業化に近づく後半フェーズで「自社でやる意味」を本格的に問うという段階的な判断プロセスの設計が不可欠となります。

大企業という枠組みの中で、構造的な壁に立ち向かいながら新規事業を推進することは決して容易ではありません。しかし、正しい目標設定と相場観を持ち、社内外を巻き込む「仕組み」を築いていくことで、組織に新しい風を吹き込むことは確実に可能です。本イベントが、変化に挑むすべてのイントラプレナー(社内起業家)の皆様にとって、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
BizDev KOMMONS ft. AlphaDriveは、企業や業界を越えて新規事業開発の知見を共有するマネジメント実践コミュニティです。
月次セミナーやオフライン交流会、ノウハウ共有座談会を通じて、他社の成功事例や現場で役立つ実践知を学ぶことができます。
新規事業開発に携わる方は、ぜひご参加ください。
JOIN US!
まずは無料会員登録で、
あなたにぴったりのカスタマーサクセス案件を見つけよう!