2025.09.30

製造業のカスタマーサクセスとは?立ち上げ担当者が知るべき導入ステップと成功の鍵

「製造業でカスタマーサクセス部門を立ち上げることになったが、何から手をつければいいのか分からない」「SaaS業界の事例はよく見るけれど、自社のようなメーカーに本当に当てはまるのだろうか」——そんな不安や疑問を抱えていませんか。

社内に前例がなく、相談できる相手もいない中で、手探りで情報を集めている担当者の方は少なくありません。従来の売り切り型のビジネスモデルが長かったため、顧客と継続的な関係を築くためのノウハウが社内に蓄積されておらず、どこから手をつけるべきか判断に迷うのも当然のことです。

この記事を読めば、製造業におけるカスタマーサクセスの重要性から、部門を立ち上げるための具体的な5つのステップ、そして活動の成果を測るためのKPI設定まで、あなたが明日から一歩を踏み出すための羅針盤が手に入ります。

この記事の結論

  • 製造業におけるカスタマーサクセスは、製品を売って終わりではなく、顧客が製品を通じて事業を成功させられるよう能動的に支援する活動です。
  • 立ち上げは、まず目的とゴールを明確にし、経営層の合意を得ることから始めます。
  • 小さな成功体験を積み重ね、社内にカスタマーサクセスの価値を浸透させていくことが成功の鍵です。
  • 活動の成果は、NPS(顧客推奨度)や既存顧客からの追加受注(アップセル)、紹介件数などのKPIで測定し、事業への貢献を可視化します。
  • 営業部門とは顧客情報を共有し、アップセルの機会を連携するなど、敵対せず協力体制を築くことが不可欠です。

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なぜ今、製造業にカスタマーサクセスが必要なのか

「なぜ、今うちの会社にカスタマーサクセスが必要なんだ?」

部門の立ち上げを進める上で、経営層や他部門から必ず問われるこの質問に、あなたは明確に答えられるでしょうか。

このセクションでは、カスタマーサクセス導入の必要性を論理的に説明し社内を説得するための土台となる知識を固めていきましょう。

「モノ売り」から「コト売り」へ、売り切りモデルの限界

現代の市場では、製品を一度販売して終わりという「売り切り型」のビジネスモデルが限界を迎えつつあります。

これは経済産業省の「DXレポート」などでも指摘されている通り、顧客は単に「モノ」を手に入れるだけでなく、それを使って課題を解決し、価値を体験する「コト」を求めているからです。

例えば、高性能な工作機械を販売するだけでは、他社との価格競争に陥りがちです。

しかし、「その機械を使って生産性を20%向上させるための運用サポート」という「コト」を提供できれば、顧客にとって唯一無二のパートナーとなり、価格以外の価値で選ばれる存在になれるのです。

このように、メーカーが競争力を維持するためには、顧客と継続的な関係を築くビジネスモデルへの転換が不可欠となっています。

LTV最大化の鍵は、顧客との継続的な関係構築

LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)という言葉をご存知でしょうか。

これは、一人の顧客が取引を開始してから終了するまでの間に、自社にもたらしてくれる利益の総額を指します。

製造業においては、初期の製品販売だけでなく、その後のメンテナンス、消耗品の購入、ソフトウェアのアップデート、上位機種への買い替えなど、長期にわたって収益機会が存在します。

顧客との関係を一度きりで終わらせず、継続的にフォローし、満足度を高めることで、このLTVを最大化することができます。

カスタマーサクセスは、まさにこのLTV向上をミッションとする活動なのです。

カスタマーサポートとの決定的な違いは「攻め」か「待ち」か

「カスタマーサクセスは、従来のカスタマーサポートと何が違うのか?」というのも、よくある質問です。

最も大きな違いは、そのスタンスが「待ち(リアクティブ)」か「攻め(プロアクティブ)」かという点にあります。

カスタマーサポート カスタマーサクセス
目的 問題解決(マイナスをゼロに) 顧客の成功支援(ゼロをプラスに)
スタンス 待ち(リアクティブ) 攻め(プロアクティブ)
主な活動 問い合わせ、クレームへの対応 活用促進、改善提案、アップセル
評価指標 応答時間、解決率 解約率、LTV、NPS

カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせやクレームを受けてから動く「待ち」の姿勢が基本です。

一方、カスタマーサクセスは、問題が起こる前に先回りして顧客に働きかけ、製品をよりうまく活用してもらうための提案を行う「攻め」の姿勢を取ります。

受動的に問題を解決するだけでなく、能動的に顧客の成功を創り出すことこそが、カスタマーサクセスの本質的な役割です。

製造業におけるカスタマーサクセスの具体的な活動内容と成功事例

では、製造業の文脈において、カスタマーサクセスは具体的にどのような活動を行うのでしょうか。

ここでは、顧客が製品を使い始めてから、その価値を最大限に引き出すまでの流れに沿って、具体的な活動内容と成功事例を見ていきましょう。

自社で何ができるかをイメージしながら読み進めてみてください。

顧客の成功を導く3つのフェーズと活動例

カスタマーサクセスの活動は、顧客の習熟度に合わせて大きく3つのフェーズに分けられます

  • フェーズ1:オンボーディング(導入支援)
    顧客が製品をスムーズに使い始められるように支援する段階です。製造業では、機器の設置や初期設定のサポート、操作方法のトレーニングなどがこれにあたります。ここでつまずかせないことが、その後の長期的な関係の土台を築きます。
  • フェーズ2:アダプション(活用促進)
    顧客が製品の基本的な使い方に慣れた後、さらに価値を引き出せるように支援する段階です。定期的なヒアリングを通じて利用状況を確認し、より効果的な使い方を提案したり、便利な隠れ機能を紹介したりします。
  • フェーズ3:エクスパンション(成果拡大)
    顧客のビジネスがさらに成長するように、アップセル(上位製品への移行)やクロスセル(関連製品の追加購入)を提案する段階です。顧客の成功が自社の売上拡大に直結する、まさにWin-Winの関係を目指します。

成功事例1. IoTデータを活用した予兆保全と稼働率向上支援

ある産業機械メーカーでは、販売した機械にIoTセンサーを取り付け、稼働状況を遠隔で常時監視しています。

カスタマーサクセスチームは、そのデータを分析し、部品の劣化や故障の兆候を検知すると、顧客の工場が停止してしまう前に「そろそろ、この部品の交換時期です」と能動的に連絡を入れます。

これにより、顧客は突然のダウンタイム(稼働停止時間)を防ぐことができ、生産計画を安定して実行できます。

これは、政府の白書でもDXの代表例として挙げられる「予兆保全」を実践したものであり、単なる保守サービスを超えた、顧客の事業成功に直接貢献するカスタマーサクセス活動の典型例です。

成功事例2. 顧客の利用状況分析に基づく改善提案とアップセル

別の建設機械メーカーでは、顧客が保有する機械の稼働データを分析しています。

分析の結果、ある顧客の機械の稼働率が同業他社に比べて低いことが分かりました。

そこでカスタマーサクセス担当者が訪問し、操作方法や作業フローをヒアリングしたところ、特定の機能がうまく活用できていないことが判明。

担当者はその場で効率的な使い方をレクチャーし、稼働率を大幅に改善させました。

さらに、その顧客の事業拡大計画を聞き出し、次のステップとして最適な上位モデルを提案した結果、スムーズなアップセルにも成功しました。

このようにデータに基づき、顧客自身も気づいていない課題を発見し、解決策を提示することが、信頼関係を深め、ビジネスを拡大させる鍵となります。

製造業でカスタマーサクセスを立ち上げるための5ステップ

ここからは、手探り状態から脱却し、失敗の少ない導入プロセスを5つのステップに分けて詳しく解説します。このロードマップを参考に、明日からの一歩を踏み出しましょう。

ステップ1. 目的とゴールを明確にし、経営層の合意を得る

最初に行うべきは、「何のためにカスタマーサクセスをやるのか」という目的を明確にすることです。

例えば、「既存顧客からの売上を2年で1.5倍にする」「主力製品の解約率を1年で3%改善する」など、具体的で測定可能なゴール(KGI)を設定しましょう。

このゴールが、今後の活動の方向性を決める羅針盤となります。

そして、設定した目的とゴールを基に、なぜ今カスタマーサクセスが必要なのかを経営層に説明し、正式なミッションとして合意を取り付けることが、立ち上げの第一歩です。

ステップ2. 顧客を理解し、セグメント分けを行う

次に、あなたの会社の顧客について深く理解することから始めます。

全ての顧客に同じ手厚いサポートを提供するのは、リソース的に不可能です。

そこで、売上規模、将来性、製品の利用状況などの基準で顧客をいくつかのグループ(セグメント)に分類します。

例えば、「年間取引額が大きく、今後も成長が見込める優良顧客」「取引額は小さいが、将来の伸びしろがある育成顧客」といった形です。

このセグメント分けによって、限られたリソースをどこに集中させるべきか、戦略的に判断できるようになります

ステップ3. チームの体制と役割分担を決める

カスタマーサクセスは、一つの部門だけで完結するものではありません。

特に、顧客情報を最も多く持つ営業部門や、製品開発を担う技術部門との連携は不可欠です。

立ち上げ段階では、専任担当者を1〜2名置くことから始めるのが現実的でしょう。

その上で、「営業担当が新規契約を獲得したら、顧客情報をCS担当に引き継ぐ」「CS担当が顧客から得た製品改善の要望を、技術部門にフィードバックする」といった、部門間のスムーズな連携ルールを明確に決めておくことが重要です。

営業部門との連携を成功させる3つのコツ

カスタマーサクセス部門の立ち上げ時、最も重要なパートナーであり、時には壁にもなりうるのが営業部門です。ここでは、良好な協力関係を築くための3つのコツをご紹介します。

  1. 役割分担を明確にする
    「契約までは営業、契約後はCS」という基本的な線引きはもちろん、「アップセルやクロスセルの提案はどちらが主導するか」など、グレーゾーンになりがちな部分のルールを事前にしっかり話し合っておきましょう。
  2. 情報共有の仕組みを作る
    営業が持つ顧客の背景情報(課題、キーパーソンなど)と、CSが得る製品の利用状況や満足度。これらをCRM(顧客関係管理)ツールなどで一元管理し、互いにいつでも参照できる状態を作ることが連携の第一歩です。
  3. Win-Winの関係を意識する
    CSは、顧客との対話から得た追加ニーズやアップセルの機会を営業にパスすることで、営業の売上目標達成に貢献できます。逆に営業は、CSの活動によって顧客満足度が高まり、紹介(リファラル)に繋がるというメリットがあります。お互いの貢献を認め合う文化を育てましょう。

ステップ4. 顧客セグメントに合わせたアプローチを設計する

ステップ2で分けた顧客セグメントごとに、どのようなアプローチを行うかを設計します。

一般的に、アプローチは顧客単価に応じて3つのレベルに分けられます

  • ハイタッチ:最も重要な優良顧客に対し、専任担当者が定期的に訪問するなど、手厚い個別対応を行います。
  • ロータッチ:中堅顧客層に対し、複数の顧客を集めた勉強会や定期的なオンラインミーティングなど、ある程度効率化された対応を行います。
  • テックタッチ:その他の多くの顧客に対し、メールマガジンや使い方動画、FAQサイトの充実など、テクノロジーを活用した一斉対応を行います。

自社の顧客構成に合わせて、これらのアプローチをバランス良く組み合わせることが成功の鍵です。

ステップ5. 小さく始めて成果を可視化し、改善を繰り返す

最初から完璧な体制を目指す必要はありません。

まずは、ステップ2で特定した優良顧客のうち数社を対象に、ハイタッチなアプローチを試すことから始めましょう(スモールスタート)

その数社との取り組みで、「顧客満足度が向上した」「消耗品の追加購入に繋がった」といった小さな成功実績を作ることが重要です。

その成果を社内に共有することで、カスタマーサクセスの価値が認められ、協力者が増え、活動の輪を広げていくことができます。

計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルを回しながら、少しずつ仕組みを育てていきましょう。

活動の成果をどう測る?製造業におけるKPI設定の考え方

「カスタマーサクセスの活動が、本当に会社の利益に貢献しているのか?」

この問いに答えるためには、活動の成果を客観的な数値、つまりKPI(重要業績評価指標)で示す必要があります。

ここでは、製造業のビジネスモデルに適したKPIの具体例と、その設定・運用における注意点を解説します。

なぜKPIの設定が不可欠なのか

KPIを設定する最大の理由は、カスタマーサクセス部門が「コストセンター(費用ばかりがかかる部門)」ではなく、「プロフィットセンター(利益を生み出す部門)」であることを証明するためです。

活動の成果が数値で可視化されれば、経営層から正当な評価を得られ、必要な予算や人員の確保にも繋がります。

また、チーム内でも「自分たちの活動が、この数値の改善に繋がっている」という実感を持つことができ、モチベーションの維持・向上に役立ちます。

製造業で見るべきカスタマーサクセスのKPI具体例

SaaSビジネスでよく使われる「解約率(チャーンレート)」も重要ですが、製造業ではそれに加えて、以下のような多様なKPIを設定することが有効です

  • NPS®(ネット・プロモーター・スコア):「この製品やサービスを友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問で顧客ロイヤルティを測る指標。顧客満足度の変化を定点観測できます。
  • アップセル・クロスセル率/金額:既存顧客からの追加受注がどれだけ生まれたかを示す、最も分かりやすい売上貢献の指標です。
  • リファラル(顧客紹介)件数:顧客が満足し、新たな顧客を紹介してくれた件数。真の満足度と口コミ効果を示します。
  • 製品・機器の稼働率:顧客が製品をどれだけ活用できているかを示す指標。特にIoT機器などでデータを取得できる場合に有効です。
  • サポート問い合わせ件数の削減率:カスタマーサクセスの先回りの支援によって、顧客が自己解決できることが増え、サポートへの問い合わせが減ったことを示す指標。業務効率化への貢献を示せます。

KPIを測定・運用する上での注意点

KPIを設定して終わり、では意味がありません正しく運用するために、以下の3つの点に注意しましょう。

  1. 測定方法を統一する:誰がいつ測定しても同じ結果になるよう、NPSのアンケート方法やアップセルの定義などを明確にルール化しておくことが重要です。
  2. 定期的にレビューする:毎週、あるいは毎月のチームミーティングでKPIの進捗を確認し、目標達成のために次は何をすべきか、具体的なアクションプランに繋げましょう。
  3. 目標値は現実的に設定する:最初から高すぎる目標を掲げると、チームが疲弊してしまいます。まずは現状を把握し、少しずつ改善していけるような現実的な目標値を設定することが、継続のコツです。

まとめ|製造業のカスタマーサクセスは顧客との共創から始まる

この記事では、製造業でカスタマーサクセスを立ち上げる担当者のあなたに向けて、その必要性から具体的な導入ステップ、そして成果を測るためのKPI設定までを解説してきました。

最後に、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 市場の変化により、製品を売って終わりの「モノ売り」から、顧客の成功を支援する「コト売り」への転換が求められています。
  • カスタマーサクセスの立ち上げは、目的とゴールを明確にし、小さく始めて成功実績を積み重ねていくことが成功の鍵です。
  • 活動の成果は、NPSやアップセル率といった客観的なKPIで測定し、事業への貢献を社内に示していくことが不可欠です。

完璧な計画を立てることに時間を使いすぎる必要はありません。

最も大切なのは、まず一歩を踏み出し顧客の声に真摯に耳を傾けることから始めることです。

この記事が、あなたの会社の未来を顧客と共に創り上げていく、その第一歩の助けとなれば幸いです。

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