2025.06.06
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いは何?3つの観点から解説
CSブログ
「最近よく聞くカスタマーサクセスって、うちのカスタマーサポートと何が違うの?」
「サポートは頑張っているはずなのに、なぜか顧客の解約が減らない…」
SaaSやサブスクリプション型のビジネスが主流になる中で、「カスタマーサクセス」という言葉を耳にする機会は急激に増えました。
しかし、従来のカスタマーサポートとの具体的な役割の違いや、なぜ今それほどまでに重要視されているのかを、明確に説明するのは簡単ではありません。表面的な情報だけを追っていても、自社の売上や顧客満足度に繋がる本質的な打ち手は見えてこないでしょう。
本記事では、以下のような課題を解決します:
- カスタマーサクセスとカスタマーサポートの役割・目的・KPIの明確な違いを理解する
- なぜ今、多くの企業がカスタマーサクセスを導入しているのか、その背景を把握する
- 自社のサポート部門が抱える「コストセンター問題」や「メンバーの疲弊」といった根本課題を特定する
- 両部門が対立するのではなく、連携して事業を成長させるための具体的な方法を知る
- リソースが限られていても、明日から始められるカスタマーサクセスの現実的な第一歩を踏み出す
この記事では上記のような課題を持っている方に向けて、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いから、売上を伸ばすための組織の作り方までを徹底的に解説します。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの3つの違い
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの最も重要な違いは、その目的と役割にあります。
端的に言えば、カスタマーサクセスは顧客の成功を能動的に創り出す「攻め」の活動であり、カスタマーサポートは顧客の問題を受動的に解決する「守り」の活動です。
この根本的なスタンスの違いが、具体的な業務内容や重視する指標(KPI)の違いに繋がります。
1. 目的の違い:顧客の「成功」を創出するか、「問題」を解決するか
両者の目的は根本的に異なります。カスタマーサポートの目的は、顧客から寄せられた問い合わせやトラブルといった「問題」を、迅速かつ的確に解決することです。
顧客が困っている時に頼りになる存在であり、いわば受動的(リアクティブ)な対応が中心となります。一方、カスタマーサクセスの目的は、顧客が製品やサービスを通じて事業上の「成功」を実感できるよう、能動的(プロアクティブ)に働きかけることです。
問題が発生する前に先回りして支援し、顧客のビジネスゴール達成をパートナーとして伴走します。
2. 役割の違い:「攻め」の収益貢献か、「守り」の顧客満足度維持か
目的の違いは、組織における役割の違いにも直結します。カスタマーサポートは、顧客の不満を解消し、満足度を維持することで解約を防ぐ「守り」の要です。
顧客満足度の基盤を築く非常に重要な役割ですが、コストセンターと見なされやすい側面もあります。対照的に、サポートから一歩進んだカスタマーサクセスは、顧客の成功を支援することで、顧客生涯価値(LTV)の向上やアップセル・クロスセルを促進する「攻め」の役割を担います。
企業の収益に直接貢献するプロフィットセンターとしての機能が期待されるのです。
3. 重視するKPIの違い:LTV・解約率か、解決率・応答時間か
目的と役割が違えば、評価される指標(KPI)も当然異なります。両者のKPIの違いを理解することは、カスタマーサポートとサクセスの違いを明確に把握する上で欠かせません。
- カスタマーサクセスの主要KPI:LTV(顧客生涯価値)、チャーンレート(解約率)、アップセル・クロスセル率、NPS®(ネットプロモータースコア)など、事業の長期的成長に直結する指標が中心です。
- カスタマーサポートの主要KPI:顧客満足度(CSAT)、初回解決率(FCR)、平均応答時間、平均処理時間など、問い合わせ対応の効率性と品質を測る短期的な指標が中心です。
このように、カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、全く異なるミッションと評価軸を持つ組織なのです。
なぜ今、カスタマーサクセスが重要視されるのか?
「違いは分かったけれど、なぜ今、これほどまでにカスタマーサクセスが注目されているの?」と感じる方も多いでしょう。
その背景には、私たちのビジネス環境における2つの大きな変化があります。実は、国内企業の半数以上が既にカスタマーサクセスの専門部署を設置しており、その重要性を認識している企業は8割にものぼるという調査結果もあります。
ビジネスモデルの変化:サブスクリプション型ビジネスの普及
最大の理由は、SaaSに代表されるサブスクリプション型ビジネスモデルの普及です。従来の「売り切り型ビジネス」では、一度販売すれば取引は完了でした。
しかし、月額・年額で利用料を得るサブスクリプションモデルでは、顧客の「継続利用」が収益の生命線となります。顧客の解約(チャーン)は、そのまま収益の損失に直結します。
だからこそ、ただ問題に対応するだけでなく、顧客が「このサービスを使い続けたい」と感じるような成功体験を能動的に提供し、解約を未然に防ぐカスタマーサクセスの活動が不可欠となったのです。
顧客行動の変化:「所有」から「利用」へ、サービス乗り換えも容易に
ビジネスモデルの変化は、顧客の行動も変えました。顧客は製品を「所有」するのではなく、サービスを「利用」するようになり、より良いサービスがあれば簡単に乗り換えることが可能になりました。
競合サービスとの比較も容易なため、少しでも不満があれば、顧客はすぐに去ってしまいます。このような時代において、問い合わせを待つだけの受け身の姿勢では、顧客を繋ぎ止めることはできません。
顧客の状況を常に把握し、成功に向けて先回りしたアプローチを行うカスタマーサクセスというサポート体制が、選ばれ続けるサービスであるための必須条件になっています。
カスタマーサポートだけでは限界?あなたの組織が抱える3つの課題
もしあなたの組織が、従来のカスタマーサポート業務にのみ注力している場合、知らず知らずのうちに3つの大きな課題を抱えている可能性があります。「これは自社のことだ」と感じる点がないか、チェックしてみてください。
課題1:対応が常に後手に回り、静かに解約する顧客を見逃す
問題が発生してから対応するのがカスタマーサポートの基本です。しかし、わざわざ問い合わせをしてくれる顧客は、実は氷山の一角にすぎません。
多くの不満を抱えた顧客は、何も言わずにサービス利用を停止し、静かに去っていきます。これが「サイレントチャーン」と呼ばれる、最も恐ろしい解約の形です。問い合わせ件数が少ないからといって、顧客が満足しているとは限りません。後手に回る対応だけでは、この静かな解約予備軍に気づくことはできないのです。
課題2:コストセンターと見なされ、社内での評価や予算が得にくい
カスタマーサポートは、顧客満足度を支える重要な部門です。しかし、その活動が直接的な売上に結びつきにくいため、社内では「コストセンター(経費部門)」と見なされがちです。
その結果、新しい施策のための予算が獲得しにくかったり、業績が悪化すると真っ先にコスト削減の対象になったりするケースは少なくありません。「会社の利益に貢献している」という実感を得にくく、社内での立場が弱くなりやすい構造的な問題を抱えています。
課題3:クレーム対応に疲弊し、メンバーのやりがいが低下する
カスタマーサポートの現場では、顧客からの厳しい意見やクレームに対応する場面も多く、メンバーには大きな心理的負担がかかります。
常に問題解決に追われる状況は、メンバーのモチベーションを削ぎ、疲弊させてしまう可能性があります。「ありがとう」と感謝されることもありますが、それ以上にネガティブな感情を受け止める機会が多いため、やりがいを見失い、離職に繋がってしまうことも少なくありません。
【コラム】求められるスキルの違いは?サクセスはコンサル、サポートは問題解決のプロ
カスタマーサクセスとカスタマーサポートでは、求められる中心的なスキルセットも異なります。
カスタマーサポートに求められるのは、卓越した『問題解決能力』です。顧客からの問い合わせ内容を正確に把握し、製品知識や社内データベースを駆使して、迅速かつ的確な解決策を提示する能力が最重要視されます。いわば、特定の問題を解決するスペシャリストです。
一方、カスタマーサクセスに求められるのは、顧客のビジネス全体を理解し、成功に導く『コンサルティング能力』です。製品の機能説明に留まらず、顧客の事業課題をヒアリングし、「この機能を使えば、御社の〇〇という課題を解決できます」といった戦略的な提案を行います。顧客のビジネスパートナーとしての視点が不可欠なのです。
このように、サポートは「事後的な問題解決」、サクセスは「能動的な価値創造」と、求められるスキルの方向性が明確に違うことを理解しておきましょう。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの理想的な連携で生まれる価値
「それなら、カスタマーサポートを廃止して、カスタマーサクセスに一本化すれば良いのでは?」と考えるのは早計です。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは対立するものではなく、むしろ連携することで真価を発揮する「車の両輪」のような関係です。両者がそれぞれの役割を果たし、密に連携することで、顧客体験は最大化され、事業成長へと繋がっていきます。
1. サポートの「声」をサクセスの「先回り」に活かす
カスタマーサポートに日々寄せられる問い合わせやクレームは、顧客がつまずきやすいポイントや製品改善のヒントが詰まった「宝の山」です。
この貴重な「顧客の声」を分析し、カスタマーサクセス部門に共有することで、サクセスチームは先回りしたアクションを起こせます。
例えば、「〇〇の機能に関する問い合わせが多い」という情報があれば、その機能の使い方に関するセミナーを企画したり、分かりやすいガイドを作成して能動的に提供したりすることで、将来の問い合わせを未然に防ぎ、顧客の成功を後押しできます。
2. 顧客情報を一元管理し、シームレスな体験を提供する
理想的な連携の鍵は、情報のサイロ化を防ぐことです。CRM(顧客関係管理システム)やヘルプデスクツールなどを活用し、顧客情報を一元管理しましょう。
サポートへの問い合わせ履歴、サクセスとの面談記録、サービスの利用状況といった情報が全社で共有されていれば、どちらの部門が対応しても、顧客の状況を即座に理解した上で会話を始められます。
顧客は同じ説明を繰り返す必要がなくなり、「自分のことをよく理解してくれている」という信頼感に繋がります。このシームレスな体験こそが、優れたカスタマーサービスの基本です。
自社でカスタマーサクセスを始めるための現実的な3ステップ
「カスタマーサクセスの重要性は分かった。でも、何から手をつければいいのか…」と感じている方も多いはずです。
リソースが限られていても、今日から始められる現実的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:現状分析|まずは顧客の声と利用データを集める
最初の一歩は、闇雲に動くのではなく、現状を正しく知ることからです。まずは2つのデータを集めて分析しましょう。
- 顧客の声(定性データ):カスタマーサポートに寄せられる問い合わせ内容を分類・集計し、「よくある質問」や「クレームの傾向」を把握します。
- 利用データ(定量データ):顧客がどのくらいの頻度でログインしているか、どの機能をよく使っているか(または使っていないか)といった利用状況を分析します。
この分析から、「製品の価値を実感できていない顧客」や「解約の兆候がある顧客」の仮説を立てることが、全ての始まりです。
ステップ2:ゴール設定|自社にとっての「顧客の成功」を定義する
次に、自社のサービスにおける「顧客の成功(サクセス)」とは何かを具体的に定義します。これは非常に重要なステップです。
例えば、「サービス導入後3ヶ月以内に、〇〇機能を使ってレポートを10回作成した状態」や「△△機能によって、顧客の業務時間が月平均20%削減された状態」のように、誰が見ても分かる具体的な状態を言語化します。この定義が、今後のカスタマーサクセス活動の目的となり、チーム全員が目指す北極星(ノーススター)になります。
ステップ3:スモールスタート|既存のサポートチームで兼任から試す
分析とゴール設定ができたら、いよいよ実践です。しかし、最初から専門部署を立ち上げる必要はありません。国内の調査でも、専門部署がない企業の7割以上が、既存の担当者による兼任でカスタマーサクセス業務を行っています。
まずは、カスタマーサポートのチーム内で、サクセスを兼任する担当者を1〜2名決めることから始めましょう。そして、ステップ1で特定した優良顧客や解約リスクのある顧客など、一部の顧客に限定して、ステップ2で定義した「成功」に向けた能動的なアプローチを試してみるのです。
この小さな成功体験が、社内の理解を得て、本格的な導入に向けた大きな一歩となります。
まとめ:顧客と共に成功し、事業を成長させるパートナーへ
本記事では、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いを軸に、その重要性から具体的な始め方までを解説してきました。最後に、重要なポイントを振り返ります。
- カスタマーサポートは問題解決を目的とする「守り」の活動、カスタマーサクセスは顧客の成功創出を目的とする「攻め」の活動である。
- サブスクリプション時代において、顧客の継続利用が事業の生命線となり、能動的なカスタマーサクセスが不可欠となった。
- 従来のサポート体制だけでは「サイレントチャーン」や「コストセンター問題」といった課題に直面しやすい。
- 両者は対立せず、「車の両輪」として連携することで、顧客体験を最大化し、LTV向上に貢献する。
- 導入は「分析→定義→実践」の3ステップで、既存チームでのスモールスタートが可能である。
サポートとカスタマーサクセスの関係を正しく理解し、連携させることは、もはや一部の先進的な企業の取り組みではありません。
顧客中心の考え方が求められる現代において、全ての企業にとっての必須課題です。この記事が、あなたの会社が単なるサービス提供者から「顧客と共に成功し、事業を成長させるパートナー」へと進化するための一助となれば幸いです。まずは、あなたのチームでできる小さな一歩から踏み出してみましょう。