2025.06.06
カスタマーサクセスにおけるハイタッチとは?解約率を下げ、LTVを最大化する方法を解説
CSブログ
「カスタマーサクセスのハイタッチ戦略、具体的にどう運用すればいいの?」
「いろいろ試してはいるけれど、なかなか既存顧客の解約率(チャーンレート)が下がらない…」
「顧客ごとに最適なリテンション施策※打ちたいけど、どう設計すればいいか分からない…」
このような悩みを抱え、日々奮闘されている方も多いのではないでしょうか。
特にSaaSビジネスやサブスクリプションモデルが主流となる中で、「顧客の成功体験」を創出し、継続利用を促すカスタマーサクセスの重要性はますます高まっています。その中でも「ハイタッチ」と呼ばれるアプローチは、特に重要な顧客との関係を深め、LTV(顧客生涯価値)を最大化する鍵となります。
この記事では、カスタマーサクセスにおける「ハイタッチ」の基本的な定義から、具体的な戦略の立て方、そして成功に導くためのポイントまでを分かりやすく解説します。この記事を読めば、あなたの会社が抱えるハイタッチ戦略に関する疑問や課題を解決し、明日からのアクションに繋がるヒントが見つかるはずです。

カスタマーサクセスにおけるハイタッチとは?
カスタマーサクセスにおける「ハイタッチ」とは、一体どのようなアプローチを指すのでしょうか。ここでは、その基本的な定義と、なぜハイタッチがビジネスにおいて重要なのかを解説します。
ハイタッチの基本的な定義:1対1の手厚いサポートで顧客の成功を支援
ハイタッチとは、カスタマーサクセスにおいて、特に重要な顧客に対して行う、1対1の個別的かつ手厚いサポート活動のことを指します。文字通り「高い接触頻度」で、顧客一人ひとりの状況や課題に深く寄り添い、製品やサービスの価値を最大限に引き出し、顧客の成功(ゴール達成)を能動的に支援するアプローチです。
具体的には、専任の担当者がつき、定期的なミーティング、個別のオンボーディングプログラムの実施、戦略的なアドバイスなどを通じて、顧客との強固な信頼関係を構築していきます。この手厚いサポートにより、顧客は製品・サービスを効果的に活用できるようになり、ビジネス上の成果を実感しやすくなります。
なぜハイタッチが重要なのか?LTV(顧客生涯価値)最大化との関係
ハイタッチが重要視される背景には、LTV(顧客生涯価値)を最大化するという経営目標があります。一般的に、ハイタッチの対象となるのは、契約金額が大きい、あるいは将来的に大きな成長が見込まれるといった、企業にとって価値の高い顧客層です。
これらの顧客がサービスを継続的に利用し、さらにアップセル(より高価格帯のプランへの変更)やクロスセル(関連する別サービスの購入)に至ることは、企業の収益安定と成長に不可欠です。ハイタッチによるきめ細やかなサポートは、顧客満足度を高め、解約率を低減し、結果としてLTVの向上に大きく貢献するのです。まさに、顧客の成功が自社の成功に直結するカスタマーサクセスの思想を体現するアプローチと言えるでしょう。
ハイタッチは「おもてなし」にあらず
ハイタッチと聞くと、手厚いサポート=「おもてなし」や「御用聞き」のようなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、真のハイタッチは、単に顧客の要望に応えるだけでなく、顧客自身も気づいていない潜在的な課題を発見し、能動的に解決策を提示し、顧客を成功へと導く戦略的な活動です。
顧客のビジネスを深く理解し、信頼されるパートナーとして伴走することが、ハイタッチの本質であることを忘れないでください。
ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの違いとは?自社に最適なモデルの見極め方
カスタマーサクセスには、ハイタッチ以外にも「ロータッチ」「テックタッチ」といったアプローチが存在します。それぞれの特徴を理解し、自社の顧客や事業フェーズに合わせて適切に使い分けることが、カスタマーサクセス活動全体の効率化と成果向上に繋がります。ここでは、各タッチモデルの違いと、最適なモデルの選び方について解説します。
各タッチモデルの特徴を徹底比較
カスタマーサクセスのタッチモデルは、顧客への関与度合いによって大きく3つに分類されます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
ハイタッチ
前述の通り、大口顧客や戦略的に重要な顧客に対し、専任担当者が1対1で手厚いサポートを行うモデルです。個別ミーティング、カスタマイズされたオンボーディングなどが主な活動です。顧客単価が高く、関係構築に時間をかける価値のある場合に適しています。コストは高めですが、解約率低減やアップセルへの貢献が期待できます。
ロータッチ
中程度の顧客層に対し、1対多(担当者1人に対して複数顧客)の形でサポートを行うモデルです。ウェビナー(オンラインセミナー)、ワークショップ、勉強会、メールマガジンなどが主な活動です。ハイタッチほど個別対応はできませんが、比較的少ないリソースで多くの顧客にアプローチできます。顧客数が多いが、ある程度の個別フォローも必要な場合に有効です。
テックタッチ
顧客数が非常に多い、あるいは顧客単価が低い層に対し、テクノロジーを最大限に活用して効率的にサポートを行うモデルです。FAQサイト、チュートリアル動画、チャットボット、ヘルプセンター、アプリ内通知などが主な活動です。人的コストを抑えつつ、顧客がセルフサービスで課題解決できる環境を提供します。顧客が自律的にサービスを活用できる基盤づくりが重要です。
顧客特性に応じたタッチモデルの選び方
では、自社にとって最適なタッチモデルはどのように選べばよいのでしょうか。重要なのは、顧客のLTVや契約規模、ビジネスの複雑性、プロダクトへの習熟度などを考慮して、顧客をセグメント分けし、各セグメントに適したタッチモデルを割り当てることです。
例えば、以下のような基準で検討できます。
- ハイタッチ:年間契約額が非常に高い、戦略的パートナーとなりうる大口顧客、導入初期で手厚い支援が必要な顧客など。
- ロータッチ:中程度の契約額の顧客、ある程度の自走力はあるが定期的なフォローアップが効果的な顧客層など。
- テックタッチ:契約額が低い多数の顧客、基本的な機能の利用が中心の顧客、セルフサービスで問題解決できるリテラシーを持つ顧客層など。
全ての顧客にハイタッチで対応するのはリソース的に非現実的です。かといって、全ての顧客をテックタッチで済ませてしまうと、重要な顧客の解約リスクを高めかねません。自社のリソースと顧客の特性を分析し、戦略的にタッチモデルを組み合わせることが重要です。このタッチモデルの組み合わせ方や、より詳細な顧客の分類基準については、別の記事で詳しく解説する予定です。
「どの顧客に」「どのタッチモデルを」明確にする勇気
「全ての顧客を大切にしたい」という想いは素晴らしいですが、リソースが限られている中で成果を出すためには、戦略的な優先順位付けが不可欠です。どの顧客セグメントにハイタッチを適用し、どのセグメントにはロータッチやテックタッチで対応するのか。この判断は時に難しいものですが、明確な基準を持つことが、効率的で効果的なカスタマーサクセス体制構築の第一歩となります。
感覚的な判断ではなく、データに基づいて顧客をセグメント分けし、各セグメントの特性に合わせたアプローチを設計しましょう。
ハイタッチ戦略の具体的な進め方
ここでは、ハイタッチ戦略を具体的に進めるための3つのステップと、成功に導くための秘訣を解説します。これらのステップを踏むことで、ハイタッチ型カスタマーサクセスの具体的な運用方法が見えてくるはずです。
ステップ1:ハイタッチ対象顧客の明確化と目標設定
まず取り組むべきは、どの顧客をハイタッチの対象とするかを明確に定義することです。前述の通り、LTV、契約規模、企業の成長ポテンシャル、戦略的重要性などを基準に、自社にとって最も価値の高い顧客層を選定します。
対象顧客が決まったら、その顧客群に対してどのような状態(=成功)を目指すのか、具体的な目標(KGI:重要目標達成指標、KPI:重要業績評価指標 ※)を設定します。例えば、「半年後のチャーンレートをX%削減する」「アップセル率をY%向上させる」「顧客満足度スコアをZ点以上にする」といった具体的な数値目標が考えられます。この目標設定が、その後の施策の方向性を定め、効果測定の基準となります。
※KGI(Key Goal Indicator):最終目標を定量的に示す指標
※KPI(Key Performance Indicator):目標達成に向けた各プロセスの達成度合いを測る指標
ステップ2:個別オンボーディングと継続的な関係構築
対象顧客と目標が定まったら、次はいよいよ具体的な施策の実行です。ハイタッチ戦略の中核となるのは、顧客一人ひとりに合わせた手厚いオンボーディングと、その後の継続的な関係構築です。
具体的な施策例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 個別オンボーディングプログラム:顧客のビジネス目標や課題に合わせてカスタマイズされた導入支援プランを提供し、製品・サービスの早期活用と価値実現をサポートします。
- 定期的なミーティング(定例会):月に1回、あるいは四半期に1回など、定期的に顧客と接点を持ち、進捗確認、課題のヒアリング、新たな提案などを行います。
- プロアクティブな情報提供:顧客の業界動向や関連する新機能、成功事例など、顧客にとって有益と思われる情報を先回りして提供します。
- 緊急時の迅速なサポート体制:万が一のトラブルや急な相談にも迅速に対応できる体制を整え、顧客の信頼を得ます。
これらの活動を通じて、顧客との信頼関係を深め、顧客が抱える課題を真に理解し、共に成功を目指すパートナーとしての地位を確立することが重要です。担当CSのリソース配分を考慮しつつ、顧客にとって最も価値の高い接点を見極めましょう。
ステップ3:効果測定と改善サイクルの確立
ハイタッチ戦略は、一度実行したら終わりではありません。定期的に施策の効果を測定し、その結果に基づいて改善を繰り返すPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回すことが不可欠です。
ステップ1で設定したKPI(チャーンレート、アップセル率、顧客満足度、NPS ※ など)の進捗を定期的にモニタリングします。顧客からのフィードバックも積極的に収集し、施策が本当に顧客の成功に貢献しているのか、改善すべき点はないかを常に検証しましょう。
効果測定の結果、期待した成果が出ていない場合は、アプローチ方法を見直したり、新たな施策を試したりする必要があります。この改善サイクルを継続的に回すことで、ハイタッチ戦略の精度を高め、より大きな成果へと繋げていくことができます。ハイタッチ活動の成果を可視化することは、経営層への説明責任を果たす上でも重要です。具体的な効果測定の方法やKPI設定については、別の記事で詳しく触れたいと思います。
※NPS(Net Promoter Score):顧客ロイヤルティを測る指標。「この企業(製品・サービス)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問を通じて算出する。
ハイタッチ戦略を成功に導く3つの秘訣
上記のステップに加えて、ハイタッチ戦略を成功させるためには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
- 顧客の課題とニーズを深く理解する:表面的な要望だけでなく、顧客が本当に解決したい課題や目指しているゴールを深く理解することが、的確なサポートの第一歩です。顧客のビジネスモデルや業界動向まで把握するよう努めましょう。
- 専任担当者の配置と適切な人材育成:ハイタッチは属人的なスキルに依存しやすいため、顧客の成功にコミットできる優秀な人材を専任で配置することが理想です。また、担当者のスキルアップのための研修やナレッジ共有の仕組みも重要です。(CS担当者のスキルや育成方法については、別記事で詳しく解説予定です)
- 自社リソースに合わせた効率的な運用:ハイタッチはコストがかかるため、無限にリソースを投下できるわけではありません。どの顧客にどれだけのリソースを割くか、戦略的に判断し、可能な範囲でツールを活用するなど、効率的な運用を心がけましょう。
これらの秘訣を意識することで、より効果的なハイタッチ戦略を展開し、顧客の解約率低下やLTV向上といった具体的な成果に繋げることができるでしょう。
現場CS担当者のナレッジを「仕組み」で資産化する
ハイタッチ戦略を進める上で、現場のCS担当者の知見やノウハウが特定の個人に偏ってしまう「属人化」は避けたい課題です。素晴らしい成果を上げている担当者がいても、そのノウハウが共有されなければ、チーム全体のレベルアップには繋がりませんし、その担当者が異動・退職した際に大きな損失となります。
成功事例や失敗事例、顧客対応のポイントなどをチーム内で共有する仕組み(定期的な勉強会、ナレッジベースの構築など)を作り、組織全体の力として蓄積していくことが、持続的な成果を生み出すハイタッチ体制には不可欠です。「あの人でなければできない」ではなく、「この仕組みがあるから誰でも一定レベルの対応ができる」を目指しましょう。
なぜ今ハイタッチが重要なのか?導入で得られる4つの確かなメリット
ハイタッチ戦略を導入し、適切に運用することは、企業に多くのメリットをもたらします。特にサブスクリプション型のビジネスモデルにおいては、顧客との長期的な関係構築が事業成長の鍵を握るため、ハイタッチの重要性はますます高まっています。ここでは、ハイタッチ導入によって得られる具体的なメリットを4つご紹介します。
メリット1:解約率(チャーンレート)の大幅な低減
ハイタッチによる手厚いサポートは、顧客満足度を向上させ、結果として解約率(チャーンレート)を大幅に低減させる効果が期待できます。顧客が製品やサービスを十分に活用できず、期待した成果を得られない場合、解約に至る可能性が高まります。ハイタッチでは、専任担当者が顧客の利用状況を常に把握し、課題や疑問点があれば早期に解決を支援します。これにより、顧客は製品・サービスの価値を継続的に実感でき、「このサービスを使い続けたい」という気持ちが強まります。
解約率の低減は、安定的な収益確保に直結し、LTVの向上にも大きく貢献します。「既存顧客の解約率が下がらず悩んでいる」という企業にとって、ハイタッチは非常に有効な一手となり得るでしょう。
メリット2:顧客満足度とロイヤルティの劇的な向上
個別最適化された質の高いサポートは、顧客満足度を劇的に向上させます。自分のことを深く理解し、成功のために親身になってくれる担当者の存在は、顧客にとって大きな安心感と信頼感に繋がります。満足度が高まった顧客は、自社製品・サービスに対する愛着(ロイヤルティ)を深め、長期的なファンになってくれる可能性が高まります。
ロイヤルティの高い顧客は、単にサービスを継続利用してくれるだけでなく、好意的な口コミを発信したり、新たな顧客を紹介してくれたりすることもあります。これは、新規顧客獲得コストの削減にも繋がり、企業の成長を加速させる好循環を生み出します。
メリット3:アップセル・クロスセルによるLTV最大化
ハイタッチを通じて顧客との信頼関係が深まると、アップセル(より上位のプランへの移行)やクロスセル(関連製品・サービスの追加購入)の機会が自然と生まれます。担当者は顧客のビジネス状況や将来の展望を深く理解しているため、顧客にとって本当に価値のある追加提案を適切なタイミングで行うことができます。
無理な売り込みではなく、顧客の成功を後押しするための提案であれば、顧客も前向きに検討してくれるでしょう。これにより、顧客単価が向上し、LTVの最大化に大きく貢献します。「顧客のアップセル・クロスセルが仕組みにできていない」という課題を持つ企業にとって、ハイタッチは収益拡大の重要なドライバーとなり得ます。
メリット4:顧客からの質の高いフィードバック獲得
ハイタッチは、顧客から質の高い、本音のフィードバックを得る絶好の機会でもあります。定期的なミーティングや日々のコミュニケーションを通じて、製品・サービスに対する具体的な要望や改善点、あるいは顧客自身も気づいていない潜在的なニーズなどを直接ヒアリングすることができます。
これらの「顧客の声」は、製品開発やサービス改善のための非常に貴重な情報源となります。「顧客から『真に価値ある』フィードバックをもらえず、施策が手探りになる」という状況を打破し、より顧客中心のプロダクト開発・サービス提供へと繋げることができます。ハイタッチを通じて得られたインサイトを社内で共有し、全社的な改善活動に活かしていくことが重要です。
ハイタッチの成果を「見える化」し、経営層を説得する
ハイタッチ戦略は人的コストがかかるため、経営層からは「費用対効果はどうなのか?」という厳しい目が向けられがちです。そのため、ハイタッチ活動の成果を定量的・定性的に「見える化」し、その価値を明確に示すことが非常に重要です。
チャーンレートの低減効果、アップセル・クロスセルによる売上貢献、NPSや顧客満足度の向上などを具体的なデータで示しましょう。また、顧客からの感謝の声や成功事例といった定性的な情報も、ハイタッチの価値を伝える上で有効です。これらの成果を定期的に報告し、経営層の理解と協力を得ることが、ハイタッチ戦略を継続・発展させていくための鍵となります。ハイタッチの費用対効果を測定し、経営層を説得するための具体的な指標や報告方法については、別の機会に詳しく解説します。
まとめ:ハイタッチ戦略で顧客と共に成功を掴む
この記事では、カスタマーサクセスにおける「ハイタッチ」の定義から、ロータッチ・テックタッチとの違い、具体的な戦略の進め方、そして導入によって得られるメリットまでを解説してきました。
ハイタッチ戦略の要点を改めて整理すると、以下のようになります。
- ハイタッチとは:特に重要な顧客に対し、1対1で手厚いサポートを行い、顧客の成功を能動的に支援するアプローチ。
- タッチモデルの使い分け:顧客のLTVや特性に応じて、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチを戦略的に組み合わせることが重要。
- ハイタッチ戦略の進め方:
- 対象顧客の明確化と目標設定
- 個別オンボーディングと継続的な関係構築
- 効果測定と改善サイクルの確立
- ハイタッチ導入のメリット:解約率低減、顧客満足度・ロイヤルティ向上、アップセル・クロスセル促進、質の高いフィードバック獲得。
「ハイタッチの具体的な運用方法がわからない」「解約率が下がらない」「顧客に合ったリテンション施策を設計できない」といった課題を抱えていた方も、この記事を通じて、ハイタッチ戦略を推進するための具体的なイメージが湧いてきたのではないでしょうか。
まずは、自社の顧客を見直し、どの顧客層にハイタッチアプローチが最も有効かを見極めることから始めてみましょう。そして、小さなステップでも良いので、具体的なアクションプランを立て、実行に移してみてください。ハイタッチ戦略を通じて顧客との強固な信頼関係を築き、顧客と共に成功を掴むことが、あなたのビジネスを新たなステージへと導くはずです。