2025.05.01

カスタマーサクセスのエクスパンションとは?成功に必要なポイントや具体例を紹介

カスタマーサクセスのエクスパンションとは、顧客へ提供する価値を拡大することにより、売上を拡大するための取り組みのことを指します。

フェーズとしてはオンボーディング・アダプションの次に位置し、「アップセル」や「クロスセル」と呼ばれる手法が一般的です。

  • アップセル:サービスの上位プラン契約や、オプションプランの契約/利用人数拡大
  • クロスセル:社内外の関連サービスの追加契約

エクスパンションに成功するポイントは「組織体制の構築」と「顧客との関係構築」にあり、目先の売上を急ぐあまり無理のある提案をして、上手くいくことは希です。
顧客がサービスを継続して利用することを前提とした、提案ストーリーを丁寧に設計する必要があります。課題を正しく理解して提案内容を作成しましょう。

本記事ではエクスパンションを行うための組織体制・失敗しないポイントや具体的な提案方法を紹介します。

カスタマーサクセスのエクパンションとは?

エクスパンションとは、カスタマーサクセスのフェーズの1つであり、顧客に提供する価値を最大化するための取り組みを指します。具体的な取り組みとしてはサービスの利用継続・拡大につながるアップセル活動・クロスセル活動が中心になります。

エクスパンションの取り組みの結果として、顧客のLTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)向上につながります

エクスパンションは3つのカスタマーサクセス業務フェーズの1つである

カスタマーサクセス業務には「導入期」から「利用拡大期」まで大きく3つのフェーズがあり、エクスパンションは後半のフェーズにあたります。

エクスパンションフェーズでは、より広範な課題解決に乗り出すことで、顧客に提供する価値を拡大することを目指していきます。

  • 【導入期】オンボーディング:顧客がサービスを正しく設定し、基本的な利用方法を習得するフェーズ。
  • 【定着期】アダプション:サービスの活用促進を行い、利用の定着・運用をスムーズにするフェーズ。
  • 【利用拡大期】エクスパンション:顧客がサービスの活用を通じて、より広範囲な課題解決や新たな目標達成に取り組み、さらなる価値を得るフェーズ。

エクスパンションの目的は、顧客単価(ARPU/ARPA)向上による、顧客生涯価値(LTV)の向上である

カスタマーサクセスにおけるエクスパンションは、顧客単価向上による、顧客生涯価値の向上を目的に実施します。

顧客単価(ARPU/ARPA)を上げることに成功しても、顧客生涯価値(LTV)が下がってしまうのであれば、エクスパンションの目的を達成できていません。
「サービスが解決する課題の範囲を広げることによって、顧客が得られる価値も増え、結果的に売上の総和も増える」という構造を忘れず取り組むようにしましょう。

エクスパンションの実施方法は「アップセル」と「クロスセル」の2種類

カスタマーサクセスにおけるエクスパンションの主な提供方法としては、大きく分けて2つの方法があります。

  • アップセル:サービスの上位プラン契約や、オプションプランの契約/利用人数拡大
  • クロスセル:社内外の関連サービスの追加契約

どちらも「課題解決の範囲を拡大する」取り組みですが、アップセルは一つの課題軸の中での拡大を目指すのに対して、クロスセルでは新たな課題軸を増やすことによる拡大を目指す構造があります。

したがって、顧客単価・顧客生涯価値の伸びしろはクロスセルの提案の方が伸びやすい性質もあります。(クロスセル後に、さらにアップセルする白地がある)

ダウンセルは結果としてLTVを高めることもある

顧客が契約しているプランを下げ、顧客単価を下げる(課題解決の範囲を狭くする)ことで、結果的にLTV向上に繋がるケースも希にあります。これをダウンセルと言います。

上位プランを利用していた顧客から「複数のチームでそれぞれ運用を最適化したい」という相談があったとします。この場合において、下位プランを複数契約する方が顧客の課題解決に繋がる判断ができるなら、自信を持ってダウンセルを提案すべきです。

ダウンセルはチャーンレート抑制の文脈で使われることが多いですが、「LTV向上」の意味ではエクスパンションと目的を共通としますので、この機会に抑えておきましょう。

エクスパンション目標達成に向けた組織体制の例

エクスパンションの成功には、盤石な組織体制の構築が必須です。

オンボーディングやアダプションが十分に成功していることが前提ですが、その上で推奨される組織体制が2パターンあります。
導入数やサービスの特性から取り組む体制が企業によって異なります。今回紹介する2つのケースのメリットやデメリットを参考にしてください。

1. 1人の担当者がオンボーディングからエクスパンションまで一貫で担当するケース

1つ目の例は、キックオフミーティングからエクスパンションフェーズまで1人の担当者が一貫して担当するケースです。これはカスタマーサクセス立ち上げたての組織や、非SaaS/無形商材を扱う組織によく見られます。

実際の現場では、トップセールスや経営者が顧客支援も兼務して対応しているケースが多く見られます。

組織ケース1のメリット

  • 顧客の課題理解度が深い担当者がエクスパンションを担当するため、提案に成功しやすい
  • 事前にエクスパンションまでの計画を立てやすいので、適切なタイミングに提案できる
  • 顧客とのコミュニケーションの齟齬が生まれにくい

導入時 / 利用開始時から同じ担当者が支援できるため、顧客の課題を深く理解しているため適切なタイミングで利用拡大の提案ができます。

半年もしくは年間を通して顧客への対応スケジュールを担当が考えることで、コミュニケーションの齟齬が起こりにくく、顧客から「課題解決のために必要な提案だ」と受け入れてもらいやすいです。

組織ケース1のデメリット

  • 従業員に対して要求するケイパが高く、担当者を採用しにくい
  • 従業員の業務スコープが広くなり、1つの業務に集中しにくくなる(激務になりがち)

構造上、従業員に求めるケイパが非常に高くなります。組織立ち上げ直後は問題なくても、事業のスケールにあわせて人材不足の課題が顕在しはじめ、2つ目の分業体制に移行するケースが多いです。

また、業務スコープも広いため、従業員の生産性は低くなります。自分が得意なフェーズにのみ注力し、不得意なフェーズ(例えばアダプションフェーズ)をおろそかにしていまう。などといった問題も起こります。

2. カスタマーサクセスフェーズごとに分業し、専任の担当領域を設けるケース

2つ目の例が、カスタマーサクセスのフェーズごとに分業し、従業員の担当領域を明確に区切るケースです。ある程度グロース済みのSaaS企業のカスタマーサクセスチームによく見られるほか、カスタマーサクセスの一部業務をアウトソースしている企業にも見られます。

組織ケース2のメリット

  • 人材要件を明確にでき、属人化もしにくいので、組織拡大しやすい
  • 従業員が一つの業務に集中できるため、生産性が高い
  • 一部業務を外部にアウトソースし人員保管する選択肢が取れる

総論として、役割を切り分けることで属人性を排除し、生産性を高めることができる点に大きなメリットがあります。もちろん、理想の組織はケース1のような「1人の担当者が一貫して担当する」形ですが、現実問題(特にSaaSのCS組織においては)構築が難しく、ケース2の組織に落ち着く企業が多いです。

組織ケース2のデメリット

  • 引き継ぎが適切に行われない場合、エクスパンションの難易度が上がる
  • 顧客が関わる担当者が増え、コミュニケーションの難易度が上がる

デメリットとしては、顧客にとって関わる担当者が増えるため、対応の引き継ぎ難易度は高くなります。役割分担を適切にしなければ、顧客にとって頼るべき担当者がわからなくなる可能性があります。

どの支援部分は誰に頼ればいいのかわかり易く説明をしつつ、担当者間での引き継ぎや情報共有ももれなく行う仕組みづくりが重要になります。

また、一気通貫して行うケースに比べて、仕組み化・体制づくりに多少時間がかかる可能性があります。事業の目指す目標に向けて適宜体制変更をする前提で取り組みましょう。

ケース2におけるアウトソーシングの活用

カスタマーサクセスに分業体制を敷く場合、オンボーディングのみを切り分け、アウトソーシングすることがトレンドになっています。オンボーディング業務は定型化しやすいく、後続するフェーズと比べて人材要件も低いからです。

今後の事業のグロースに向け、採用コストやリスクを下げながらも、組織拡大に耐えられる体制を作る場合は、ぜひカスタマーサクセスBPOをご検討ください。

エクスパンションの取り組みで失敗しないポイント

エクスパンションは、新規顧客向けのセールスとは異なり、顧客の成功が前提となります。

現状の課題だけではなく、現在のサービスの利用状況・導入時の課題を理解して最適なソリューションを提案する必要があります。

下記に記載する失敗しないポイントを抑えた上で、顧客の求める価値の最大化に向けた取り組みを進めましょう。

1. サービスの利用継続を大前提に利用拡大の提案を行う

エクスパンションは事業者が顧客に提供する価値を最大化するためのフェーズです。価値を高めるための取り組みなので、ただ利用プランをアップグレードするためのトークを磨けば良いわけでも、オプション契約による顧客単価が高くなればいいわけでもありません。

既存顧客に無理な提案をすると、一時的にMRRが高くなったとしても、利用継続を諦めてしまうかもしれません。不適切な提案により解約につながってしまったら、今までの提案はもちろん今後の利用継続がなくなってしまうため、大幅にMRRが下がってしまいます。

まずはサービスの利用継続が大前提になります。継続が難しくなるような提案ではなく、顧客の求める価値を高めるための拡大提案を意識しましょう

2. 無理な提案はせず、まずは提案ストーリーを作成する

顧客がアダプションフェーズに入ってしばらく経ったので、新しいプランの提案をしてみる、新機能の提案メールを送付するだけではエクスパンション数は伸び悩んでしまいます。

導入支援と同様、なぜ顧客がサービスを契約してくれたのかを理解する必要があります。合わせて、現状の課題はなにかを把握します。

サービスの活用を通して顧客は様々な課題を抱えます。課題例としては、

  • 自社の組織が拡大し、業務範囲が広がった
  • 売上目標が高くなった
  • より少ないリソースで実現を求められている

など、何の課題を抱えているのか深くヒアリングを行いましょう。その課題に合わせた提案ストーリーを用意することが重要です。

エクスパンションに取り組むタイミングはいつか?

エクスパンションは、継続を大前提とした拡大提案が必要と説明しました。

そのうえで、がむしゃらな提案ではなく、顧客の活用状況・抱える課題に合わせた提案ストーリーが重要です。具体的な提案としてどのような取り組み方が考えられるのか、3つのパターンを参考に紹介します。

1. サービスの契約更新時にアップグレード提案を行うパターン

BtoB向けSaaSの場合は、最低契約期間というものが存在し、契約更新が毎回発生します。解約を防ぐためには、現状のつまづきや課題、活用状況についてのチェックがが非常に重要です。

契約更新の確認時に、次年度に向けたプランアップグレードを提案することで、継続利用と利用拡大の2つの要素を含めたアプローチをすることができます。

この施策はハイタッチで顧客に接触しているサービスにおすすめです。
契約更新数ヶ月前に顧客とコンタクトを取り現状提供できているサービスの利用価値、抱えている課題をヒアリングします。その内容を元に、次年度のサービスの活用方法についてよりよいプラン設計を提案します。提案内容としては、次年度もサービスを継続利用する価値を改めて説明し、現状の課題もしくは今後の高い目標に向けて必要な上位プランを提案します。

この提案方法のメリットは、短期的な提案ではなく「なぜこのサービスを継続利用するのか?」と契約更新時の顧客の問に先回りして答えることができることです。何を達成するために継続が必要なのか顧客と目線を合わせて次年度の契約を考えることができます。

しかし、1人あたりの担当件数が多い場合はすべての顧客に契約更新時の打ち合わせは難しいため、難しいケースもあります。

2. アダプション時期にサービスの追加メニューの提案を行うパターン

アダプションフェーズにて顧客の利用定着が進み、基本的な活用ができるようになったタイミングで、より価値提供をするための提案を行います。

サービスの活用が進むことで、サービスへの期待も高まり現状の契約内容でできること・できないことが明確になります。まだ取り組めていない業務課題の解決まで広げて提案をすることで、追加メニューの契約に繋がります

関連サービスによる幅広い業務課題の解決も提案できるため、クロスセルのタイミングとしてもおすすめです。

また、導入社数が多い場合はハイタッチで成功事例を作りだし、その提案ストーリーに沿って既存顧客向けセミナーやメール施策を行うことも効果的です。

注意したいこととしては、サービスによってオプション追加よりもアップグレードが多い場合や、追加メニューの金額が高い場合は予算確保が必要になるため契約更新タイミング・予算申請時期を確認してから提案に臨みましょう。

3. オンボーディング時に関連サービスの提案を行うパターン

エクスパンションは、サービスの利用継続が大前提になるため、基本的にはアダプション以降のフェーズで取り組みます。

しかし、関連サービスのクロスセルにおいてはオンボーディングフェーズでも可能です。
多くのカスタマーサクセス組織はオンボーディング中が最も顧客と伴走して取り組むことが多いです。その場合、顧客も担当の話を受け入れやすく、導入時期に合わせて追加契約が必要な関連サービスの話はスムーズに理解しやすいケースがあります。

利用開始前に合わせて揃えるべきサービスが複数ある事業の場合は、オンボーディングがうまく進んでいる顧客にはこのタイミングで提案することも効果的です。

自社の商材の解決できる課題を整理して、どのフェーズで提案すべきか考えよう

今回紹介した3つの提案タイミングに当てはまらないサービスもあると思います。重要なのは決められたタイミングを鵜呑みにするのではなく、契約してくれた顧客の課題とサービス理解を深めることです。
顧客の課題は何なのか。その課題に対して自社が解決できるもの、解決方法はなにか。そのストーリーを描き、実行し続ければエクスパンションの売上改善は見えてくるはずです。

まずはどのフェーズでどんなアプローチをすべきか1件1件の顧客に向き合い、成功パターンを掴んでいきましょう。

カスタマーサクセスにおけるエクスパンションまとめ

カスタマーサクセスのエクスパンションについて解説しました。

エクスパンションは顧客に提供できるサービス価値の最大化を目指した取り組みを指します。
そのための方法として、現サービスの追加メニュー等の提案(アップセル)と、関連サービスの契約(クロスセル)に分かれます。年間契約割引等の一時的なダウンセルに怖がらずに、長期的に顧客へ価値提供できる提案を行います。

基本的には、オンボーディング・アダプションの次のフェーズに位置しますが、クロスセルの場合にはオンボーディングフェーズでの提案も効果的です。
しかし既存顧客へチャーンリスクを高めるような提案にならないよう、継続利用を大前提に考えた提案を意識しましょう

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