2025.09.30
カスタマーサクセスのミッションとは?曖昧な理念で終わらせない作り方と事例を5ステップで解説
CSブログ
カスタマーサクセス部門の立ち上げを任されたものの、「チームのミッションをどう決めればいいのだろう」「そもそも、なぜミッションが必要なのだろうか」と、具体的な一歩が踏み出せずに悩んでいませんか。上司や他部署にその重要性を説明しようにも、明確な言葉が見つからず、もどかしい思いをしている方も少なくないかもしれません。
多くの企業でカスタマーサクセスの重要性が語られていますが、そのミッション作りは、ともすると抽象的なスローガンで終わってしまいがちです。その結果、日々の業務と理念が結びつかず、チームの活動がバラバラになったり、成果を正しく評価できなかったりと、部門そのものが形骸化してしまうケースも少なくありません。
この記事では、曖昧な理念で終わらない、本当にチームを動かす「生きたカスタマーサクセスのミッション」の作り方を解説します。具体的な5つのステップから、KPIへの落とし込み、すぐに使えるテンプレート、そして社内を巻き込むための方法まで、あなたのチームが自信を持って顧客の成功へと走り出すための羅針盤を手に入れることができます。
この記事の結論
- カスタマーサクセスのミッションとは、単なるスローガンではなく、「顧客の成功」と「自社の収益」を結びつける具体的な行動指針です。
- 成功するミッション作成の第一歩は、まず自社にとっての『顧客の成功』を具体的に定義することです。
- 作成したミッションは、解約率やLTVだけでなく、「オンボーディング完了率」など、立ち上げ初期から追える行動レベルのKPIに落とし込みましょう。
- ミッションの社内浸透には、その活動がどう売上(LTV向上)に繋がるのか、具体的な数値を交えて説明することが不可欠です。

カスタマーサクセスにおけるミッションの重要性とは?
カスタマーサクセスのミッション策定は、単なるお題目を掲げることではありません。
それは、チームの向かうべき方向を定め、日々の活動に一貫性をもたらし、事業の成長に貢献するための、極めて戦略的な活動です。
なぜ、それほどまでにミッションが重要なのでしょうか。
その理由は、大きく3つの側面にあります。
チームの「北極星」となり、判断基準を明確にする
明確なミッションは、チームメンバー全員が共有する「北極星」となります。
日々の業務では、「この顧客にはどこまでサポートすべきか」「どのタスクを優先すべきか」といった判断の連続です。
そんな時、ミッションがあれば「私たちの目的は何か」という原点に立ち返ることができます。
これにより、メンバー一人ひとりが場当たり的な対応ではなく、ミッションに基づいた自律的な意思決定を下せるようになり、チームとしての一貫した行動が生まれるのです。
LTV最大化の基盤となる「顧客の成功」を定義する
SaaSなどのサブスクリプションビジネスでは、一度きりの売上ではなく、顧客に継続的に利用してもらうことで得られるLTV(顧客生涯価値)の最大化が事業成長の鍵を握ります。
そして、LTVを最大化するための大前提が「顧客の成功」です。
カスタマーサクセスのミッションは、この「顧客の成功とは何か」を具体的に定義する役割を担います。
ミッションを通じて顧客の成功を追求し、解約(チャーン)を防ぎ、満足度を高める活動が、結果として企業の持続的な成長、つまりLTVの最大化へと繋がるのです。
関係部署に存在価値を示し、協力を得るための共通言語になる
カスタマーサクセスは、単独の部署で完結する仕事ではありません。
顧客の要望を製品に反映させるためには開発部門との連携が、受注前から顧客の期待値を正しく設定するためには営業部門との連携が不可欠です。
明確なミッションは、こうした他部署に対して「私たちは何を目指している部門なのか」を簡潔に伝えるための共通言語となります。
ミッションを共有することで、他部署からの理解と協力を得やすくなり、全社一丸となって顧客の成功を支援する体制を築くことができるのです。
【5ステップで解説】自社に合ったカスタマーサクセスミッションの作り方
それでは、実際に自社に合った「生きたミッション」をどのように作ればよいのでしょうか。
ここでは、誰でも実践できるよう、具体的なアクションを5つのステップに分けて解説します。
このステップに沿って進めることで、ゼロからでもチームの魂がこもったミッションを策定できます。
1. 顧客にとっての「成功」を具体的に定義する
ミッション作りの出発点は、常に顧客です。
まずは、「顧客が自社の製品・サービスを通じて、どのような状態になれば『成功』と言えるのか」を徹底的に考え、言語化します。
例えば、以下のような具体的なアクションを通じて解像度を高めましょう。
- 既存顧客へのインタビュー:「このツールがなくてはならないと感じるのは、どんな瞬間ですか?」
- 利用データの分析:継続利用している優良顧客に共通する機能の利用パターンは何か?
- 営業担当へのヒアリング:顧客はどのような課題を解決したくて契約を決めたのか?
「業務効率化」といった曖昧な言葉ではなく、「月末の請求書作成業務が3時間から30分に短縮されること」のように、情景が目に浮かぶレベルまで具体的に定義することが重要です。
2. 自社の製品・サービスが提供できる価値を洗い出す
次に、ステップ1で定義した「顧客の成功」に対して、自社の製品やサービスがどのように貢献できるかを明確にします。
ここでのポイントは、単なる機能の羅列で終わらせないことです。
「多機能なダッシュボード」ではなく、「散在していたデータを一元管理し、経営判断のスピードを上げる価値」といったように、機能が顧客にもたらす「価値(バリュー)」を言語化していきましょう。
自社の強みや、競合にはない独自の価値は何かをチームで洗い出すことで、ミッションの核となる部分が見えてきます。
3. 2つを繋ぎ合わせ、ミッションの草案を作成する
「顧客の成功」と「自社の提供価値」が出揃ったら、いよいよ2つを繋ぎ合わせてミッションの草案を作成します。
最初は完璧でなくても構いません。
まずは、以下のシンプルな構文テンプレートに言葉を当てはめてみることから始めましょう。
「私たちは、[どのような顧客]が、[自社の提供価値]を通じて、[どのような成功]を達成することを支援します。」
例えば、このようになります。
「私たちは、中小企業の経理担当者が、私たちのクラウド会計ソフトを通じて、月末の定型業務から解放され、より創造的な仕事に集中できる未来を実現します。」
4. チームや関係者と議論し、ブラッシュアップする
草案ができたら、それをたたき台にしてチーム全員で議論します。
「この言葉はしっくりくるか?」「もっと自分たちらしい表現はないか?」と問いかけ、メンバー一人ひとりが「これは自分たちのミッションだ」と実感できる言葉を探求していくプロセスが非常に重要です。
可能であれば、営業や開発など、日頃から連携する他部署のメンバーにも意見を求めてみましょう。
客観的な視点を得ることで、独りよがりではない、より実効性の高いミッションへと磨き上げることができます。
5. 簡潔で覚えやすいミッションステートメントに落とし込む
最後のステップは、議論を通じて磨き上げたミッションの核を、誰もが覚えやすく、口ずさめるような簡潔な言葉(ミッションステートメント)に落とし込むことです。
良いミッションステートメントは、以下の要素を満たしています。
- 簡潔であること(短く、覚えやすい)
- 行動を促すこと(何をすべきかがイメージできる)
- 顧客視点であること(主語が顧客になっている)
例えば、「顧客満足度No.1を目指す」といった内向きな目標ではなく、「テクノロジーの力で、すべてのスモールビジネスを成功に導く」のように、誰のために何をするのかが明確で、心に響く言葉を目指しましょう。
ミッションを具体的な目標に変換するKPI設定のポイント
素晴らしいミッションを策定しても、それが日々の業務に落とし込まれなければ「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
ミッションを具体的な行動へと繋ぎ、その成果を測るために不可欠なのが、KPI(重要業績評価指標)の設定です。
ここでは、ミッションを達成するためのKPI設定の考え方を解説します。
ミッション達成度を測るKGIを定める(例:LTV、解約率)
まず、ミッションが最終的にどのようなビジネス成果に繋がるのかを示す、KGI(重要目標達成指標)を定めます。
カスタマーサクセスにおける代表的なKGIは、事業の健全性を示す以下のような指標です。
- LTV(顧客生涯価値):一人の顧客が取引期間中にもたらす利益の総額
- チャーンレート(解約率):一定期間内に契約を解除した顧客の割合
- 売上継続率(NRR):既存顧客からの売上が前年比でどれだけ増減したかを示す指標
これらのKGIは、ミッションに基づいた活動が、正しく事業貢献に繋がっているかを測るための最終的な成績表となります。
日々の行動に繋がるKPIを設定する(例:オンボーディング完了率、NPS)
KGIが最終的なゴールだとすれば、KPIはその達成に向けた日々の活動を測るための指標です。
KGIは天候など外部要因の影響も受けますが、KPIはチームの行動によって直接的にコントロールできるものが望ましいとされています。
代表的なKPIには、以下のようなものがあります。
- オンボーディング完了率:新規顧客が初期設定を完了し、本格利用を開始した割合
- アダプション率(機能利用率):顧客が製品の主要機能をどれだけ活用しているかを示す割合
- NPS®(ネットプロモータースコア):顧客ロイヤルティ(企業や製品への愛着・信頼)を測る指標
- ヘルススコア:顧客のサービス利用状況や満足度を総合的に評価し、解約リスクを可視化する指標
これらのKPIを追いかけることで、KGIの悪化を未然に防ぎ、先回りしたアクションを取ることが可能になります。
NPS®だけじゃない!顧客の声を測る指標
【注意点】立ち上げ初期は活動量KPIから始めるのも有効
ここまで様々な指標を紹介しましたが、「立ち上げ初期でデータも少なく、いきなり成果を測るのは難しい」と感じる方も多いでしょう。
その場合は、無理に成果指標(LTVやNPSなど)を追うのではなく、まずは「活動量」をKPIに設定することから始めるのが有効です。
例えば、以下のような指標です。
- 顧客との定期ミーティング実施数
- 活用支援セミナーの開催回数
- サポートへの問い合わせ対応件数
まずはチームとして顧客と向き合う活動量を担保し、その中で成功パターンを見つけながら、徐々に成果指標へと移行していく。この現実的なアプローチが、立ち上げ期のチームを軌道に乗せるための鍵となります。
策定したミッションを社内に浸透させ、協力を得る方法
魂のこもったミッションが完成しても、それがチーム内だけの合言葉で終わってしまっては意味がありません。
特に立ち上げ期のカスタマーサクセス部門にとっては、経営層や他部署からその存在価値を理解され、協力を得ることが成功の絶対条件です。
策定したミッションを武器に、社内を巻き込んでいきましょう。
経営層に事業貢献度を説明する際のポイント
経営層に対しては、情熱や理念だけでなく、ミッションに基づいた活動が「いかに事業の数字に貢献するか」をロジカルに説明する必要があります。
ポイントは、ミッションとKGIを結びつけて語ることです。
「私たちのミッションである『顧客の成功』を追求することで、解約率が〇%改善し、結果として年間〇〇円の収益インパクトが見込めます。このミッション達成のために、まずはオンボーディング体制の強化に〇〇の投資が必要です」
このように、目指す姿(ミッション)、最終的な成果(KGI)、そして必要な投資(予算・人員)をセットで提示することで、経営層も判断がしやすくなり、必要なリソースを確保しやすくなります。
営業や開発など他部署を巻き込むための働きかけ
営業や開発といった他部署を巻き込む際は、「CSの活動に協力してほしい」とお願いするだけでは不十分です。
相手の部署にとって「どのようなメリットがあるのか」を提示し、Win-Winの関係を築く意識が重要です。
- 営業部門に対して:「私たちが受注後の顧客満足度を高めることで、既存顧客からのアップセルや紹介に繋がり、皆さんの新しい営業機会を創出できます。」
- 開発部門に対して:「私たちが顧客と日々対話する中で得た『生の声』を体系的にフィードバックすることで、より顧客に愛される製品開発に貢献できます。」
The Modelに代表されるように、現代の営業プロセスは各部門の連携が前提です。
ミッションを共通言語としながら、他部署にとってのメリットを具体的に示すことで、単なる「協力依頼」が「共に顧客の成功を目指すパートナーシップ」へと変わっていきます。
まとめ
本記事では、曖昧な理念で終わらない「生きたカスタマーサクセスのミッション」の作り方を、5つのステップから具体的なKPI設定、社内への浸透方法まで一気通貫で解説しました。
カスタマーサクセスのミッションは、壁に飾るための言葉ではありません。
それは、チームが迷った時に立ち返るべき「北極星」であり、日々の活動に意味と一貫性を与える「羅針盤」であり、そして社内の仲間から協力を得るための「共通言語」です。
何から手をつければいいか分からなかった方も、まずはこの記事で紹介したステップ1「顧客にとっての『成功』を具体的に定義する」ことから始めてみてください。
顧客の顔を思い浮かべながらチームで対話を重ねるそのプロセスこそが、あなたのチームだけの、魂のこもったミッションを生み出すための最も確実な第一歩となるはずです。
